自分よりランク上を狙う! 傷が勲章「金」時計の使い方
ファッション業界の賢人が編集長・干場に買わせたい逸品を価格帯別に紹介する連載第9回。ご登場いただくのは時計雑誌『クロノス』編集長の広田雅将氏です。お題はもちろん腕時計。「ヨウフクくん」と自分のことを言う干場が、「とけいクン」、そして「ハカセ」と呼ぶ、時計専門家の広田氏が薦める時計から、干場のお眼鏡に適う逸品は登場するのか!?
干場編集長(以下敬称略):今回は時計専門誌『クロノス日本版』編集長の広田さんに、腕時計の松竹梅をお持ちいただきました。
広田氏(以下敬称略):錚々たる顔ぶれの方が登場している連載ですね……。
干場:以前、『オーシャンズ』の太田編集長にご登場いただいた時に、「ホッシーには、すすめても結局、自分の好きなものしか選ばないから茶番だ!」なんて言われた企画です(笑)。でも、皆さん、その道のプロの方で、選ぶ基準などとても面白くて、毎回なるほどな~って思わされるんです。しかも、この連載を思いついたのは、実は、以前、広田さんとお話ししたことがヒントになっていまして……。
時計ブランドのディナーの時にテーブルをご一緒して、時計を買うなら何がいいですかね!?って、相談したんですよ。それがヒントだったんです。
広田:そうなんですか?

干場:男性の時計って、イタリア人の考え方だと、4つのスタイルに似合うものがあればいいと思っているんです。ひとつはスーツスタイル。仕事をバリバリこなす40代の男の人にとって不可欠なのがまずスーツに似合うっていうことですよね。ふたつめは、ジーンズとTシャツスタイル。休日などには、カジュアルな場面もあるので、これも必要不可欠の要素です。あとは、水着のときのスタイルに似合う時計。防水性も大事な要素です。で、最後はタキシードスタイルに似合う時計。フォーマル、しかもタキシードが似合うというのは、グローバルスタンダードな証ですからね。
今までこの目線で時計を買ってきたんです。で、最近のものの中で一番の大物買いが、僕の中では、オーデマ ピゲのロイヤルオークだったんです。
広田:あれは干場さんに本当に似合いますよね。ぴったりですよ。
干場:あれはラグジュアリースポーツウォッチとして自分の中の、アガリ時計だなと思っていたんです。ステンレススティ−ルのブレスレットウォッチですが、スーツにもジーンズとTシャツにも、水着にも合う。ただタキシードには、やはりドレスウォッチの2針のほうがいいのかな、って思っていまして……。そこで、パテック フィリップのカラトラバとオーデマ ピゲのロイヤル オークがあれば、他はいらないかなと思っていたんですけれど。40歳を越えて、50代に向けて枯れていく時に、もっと超越した王道の時計はないかな、と思ってご相談したのが広田さんだったんです。
広田:干場さんの時計選びって、まさにイタリア人の時計選びなんですよね。イタリア人の時計選びって、とてもはっきりしていて、堅実なんです。こういうシーンにはこれ、って基本を押さえて、そこから遊びを入れていくんです。
例えばピッティのスナップなどを見ると、よくわからないペラペラのクォーツ時計をハズしでつけていたりする。
干場:なんですか、よくわからないペラペラのクォーツって!?(笑)

広田:よくピッティのスナップを見ると、おしゃれな人がハズしで敢えてそういうクォーツ時計をつけているんです。それってTPOをきちんと解った上でつけているので、余裕すら感じるんです。干場さんがそういうチープなウォッチみたいなのつけても面白いかもしれませんね。
干場:究極の選択ですね! 先日、ロレックスのショップがオープンしましたが、実はそこでゴールドに白文字盤のデイトナ、ゴールドに黒文字盤のサブマリーナ、ゴールドのGMTを見たんですよ。ゴールドウォッチが欲しいな、と思って。
広田:干場さん、フル金の時計、好きですよね。
干場:これは『LEON』編集部在籍時代に岸田さん(初代編集長)に何を買おうか相談したとき「干場はさぁ、金のロレックスでいいんだよ」って言われたんですよ。
「なんでですか?」って岸田さんに聞いたら、「船が沈みそうになるじゃん。で、あともう一人なら脱出するボートに乗れるってなる。その時に、この女の子を乗せてあげてよ、って言って、(船の人に)金の時計を渡すっていうストーリーが出来ているんだよ。だから買うなら金の時計だ」って。(一同大爆笑)
金の時計には人を助けることが出来るくらい価値があるっていうことなんです。で、それを思い出して、金の時計をいつか欲しいなと思っていまして……。

広田:僕も干場さんには金の時計が似合うと思います。なぜかというと、金の時計は、中でもブレスレットまで金の時計というのは身に着ける人を選ぶんです。基本的にある程度日焼けしていないと似合わない。ローズならまだいいんですが、イエローゴールドは日焼けしていないと似合わないんです。
干場:それは名門時計雑誌『クロノス』の編集長からご覧になってそう思われるんですね!?
広田:僕はそう思いますね、名門かどうかは不明ですが。それに、ある程度お金があるのなら、フル金の時計を一つくらい買ってもいいんじゃないかな、と思うんです。
干場:なぜですか?

広田:最初は似合わないと思っていても、着けているうちに似合ってくるんです。時計の選び方のひとつとして、自分に合うものを選ぶ、というのがありますが……。あとひとつが、ちょっとこの時計に自分は負けるかもな、って思うようなものを買って、それに合わせていく、それにふさわしい自分になるようにするっていうのがあります。
よくどんな時計を買ったらよいか、と聞かれるのですが、例えば経営者の方などには自分よりランクが上と思われるものを買ってみたら、と提案します。それは無理をしたり背伸びをする、というより、その時計に負けないように、さらっと身に着けられるようになれるように、ということです。金の時計って真面目に毎日使っていたら傷だらけになるんですよ。それを猫可愛がりして大事にするのではなく、さらりと着けるのということが大人の余裕を感じさせるんです。
干場:なるほど!
広田:傷つけないように気を配りすぎるのは格好悪いので、気を遣わずに、でもきちんと気を遣って使うのがいいんです。で、そこまで考えると、立ち振る舞いも格好よくなる。
薄型時計も同様で、あれがステイタスというのは確かに価格も高いんですが、普通に使っていると壊れやすい。あれを壊さずに使うというところがミソなんです。
干場:高価なものを買って、それにふさわしい振る舞いが出来るように、身に着ける人が成長するってことなんですね。
広田:薄型時計を持っていることよりも、あれをきちんと使えることのほうがステイタスなんです。大人の時計選びというのは、何を買うかも大事ですが、どう使うか、ということを念頭に置くとまた楽しくなってきます。
そういう事からフル金というのはおすすめなんです。虎の穴矯正ギプスみたいですが……(笑)
干場:矯正ギプスを着けてエレガントになる! 面白いですね。
さて前振りがめちゃめちゃ長くなりましたが、おすすめの松竹梅をお願いいたします。梅はどちらになりますか?

広田:ハミルトンの時計です。
今回、干場さんへの時計選びのテーマは、イタリア人の時計選び、さらにハズしたバージョン、ということにしました。
干場:へ~、それは面白そう!
なぜ、このハミルトンを選ばれたんですか? これかっこいいですね。おいくらでしょうか?
広田:5万400円です。イタリア人ってミリタリーテイストのものが好きなんですよね。
干場:これベーシックだし、バランスいいですよね。価格も手ごろですし。
広田:ハミルトンのカーキは80年代にイタリアでまず売れたんです。(ストラップ部分が)ボロボロになったカーキを着けているおっさんが今もよくいます。ジーンズにTシャツというスタイルに合わせて、使い込んでいくのがいい感じですよね。退色してかっこよくなっていくんです。あと、これくらいの金額ですとストラップで遊べます。最近、ストラップを替えて遊べる時計がトレンドですし。
干場:例えばオメガのジェームズボンドモデルのようなNATOストラップの時計の魅力もあるんですが、このストラップ、ひと味違っていいですよね、なんともいえない雰囲気がある。文字盤もカーキなんですね。
広田:大体、標準的なモデルって自動巻きが多いんですが、これは、あえての手巻き。
干場:その心は?
広田:ハズし。あと手巻きなので、ガシガシ使っても大丈夫なんですよ。そしてこれ、薄いんです。
干場:確かにそうですね。

広田:今回選んだ3本に共通しているのは薄いっていう点です。シャツを着ても袖口が大丈夫なように。
干場:これは本当にいいですね、刺さりました!
広田:普段使いによくて、ストラップがボロボロになってもサマになるんですよ。
年齢層も関係なく、これは永遠の定番ですね。
干場:白髪のジジイになって、白いTシャツにジーンズにこれって相当かっこいいですよね。
イタリア人だと、シャツの袖口みたいに、ここ(ストラップ)を削ったりしますよね、きっと。ずっと使っているようなニュアンスを出したヤレタ感じがいいって。
ところでハミルトンってアメリカのものですよね。
広田:そうです。元はアメリカでしたが、今はスイスで作っています。
干場:ところで、軍モノウォッチの起源は何になるんでしょうか?
広田:やはりハミルトンのカーキは軍モノの元祖みたいなものですよね。
干場:それはある意味、リーバイスの501みたいなものですか?
広田:そうそう! ど定番。カーキはメインが自動巻きになって作りが良くなったんですが、あえて手巻き、というのがいいんです。イタリアのおっさんはこのオリジナルの手巻きを見て育ったりしているんです。先ほども言いましたが薄いので干場さんにおすすめです。
干場:今こそオリジナル! っていうことですね。これはいいな~。
では、次の竹をお願いいたします。