ショーウインドウに張り付き、トランペットを眺め続けた少年のように…
さて、第19回めはジンターラのブーツです。ジンターラについては、第9回めにご紹介しているので省きますが、この写真見たとき、「あれ? コレってホワイツ(WHITE'S) のノースウェスト(North West)じゃないの??」って思った方が多いんじゃないでしょうか。そう、じつは当時HIGH BRIDGE INTERNATIONALが別注したモデルなんですが、まさに「ホワイツのノースウェストをラグジュアリーにアップデートさせる」というコンセプトで作られており、ジンターラが得意とするバケッタレザーを使ってはいるものの、ビブラム(Vibram)のホワイトクレープソールを履くなど忠実に再現…、というか完全に模倣ですね(笑)。そして、シルバノ・ラッタンジさんがハンドで手掛けてたとあって、価格はほぼ2倍! 18万円でした。ホーウィンのコードバンを使ったものもリリースしていたんですが、そちらはさらに驚愕! 40万近い価格でした。
ジンターラって、結構いろいろな靴をサンプリングしていて、というかランクを上げて再現して欲しいという依頼が多かったようで、レッドウィングのアイリッシュセッターを元にしたフラノ(FURANO)っていうモデルを作ったりもしてました。こちらの再現度は低めでイマイチでしたが…(笑)。ちなみに、CARPE DIEMのブーツもサンプリングしちゃったもんだから、デザイナーのマウリツィオ・アルティエリが「真似しやがって、この野郎!」的に激怒したなんて話もあったほどです。
そんな話はさておき、このブーツ、カッコよくないですか? 佇まいがとにかく美しくて、さすがシルバノ・ラッタンジって感じ。見た瞬間、完全にひと目惚れしたんですが、18万円ですよ…。全然買えない。今はなき青山のハイブリッジのショップと、ジャーナルスタンダード 渋谷店の地下に売ってたんですが、喉から手が出るほど欲しくて。それこそショーウィンドウに張り付いて、毎日トランペットを眺める少年のように、通っては売り切れていないかを確認する日々が続いたのを覚えています。
これだけ欲しそうな顔して眺めていたら、立派な紳士が現れて買ってくれても良さそうな気もしましたが、世の中そんなに甘くはない…。身を粉にして働いてお金を貯めましたよ。そしたら、やっぱり神様っているんですね。ずっと売れ残ってたもんだから、結構安価になり、だいぶお釣りが。残ったそのお金で、別のものまで買ってしまったのは、若気の至りです。てへ。
ただ、あまりの嬉しさで、買ってしばらくは全然履けなかった(笑)。眺めてばっかり。これじゃ、店で売ってるときと変わんない…。えい! やぁっと勇んで履き下ろしてみたもの、写真を見ていただければ分かる通り、まぁ〜キレイに履いてる。ワークブーツとは思えない状態をキープ。何やってんだろ…オレ。
佇まいが美しいとは言え、ワークブーツですから、軍パンやデニムが一番馴染みがイイんですが、最近めっきり穿く機会が減り、となると、このブーツの出番も減る一方。キレイな状態を保ったまま、12〜3年を迎えようとしています。履かないなぁ。儚いなぁ…。
もう少し白髪でも増えて、髭でもたくわえるようになったら、C.W.ニコルよろしく、木こりのような格好で、キャンプにでも履いて行って、お歳暮で頂いたハムでも焼いて食べようかと思っています。
……
………
…………、おっとその前に、再現度低いなんて文句言いながらもしっかり買ってる、アイリッシュセッターをモチーフにしたフラノも履かないとだな。
って、どんだけ買ってんだ、オレ…。
Photo:Ko Maizawa
Text:Ryutaro Yanaka
『FORZA STYLE』シニアエディター
谷中龍太郎
さまざまな雑誌での編集、webマガジン『HOUYHNHNM』編集長を経て、『FORZA STYLE』にシニアエディターとして参画。現在までにファッションを中心に雑誌、広告、カタログなどを数多く手掛け、2012年にはニューバランス初となるブランドブックも編纂。1976年生まれ。