ブランド=のれん。エルメスで学んだこと。
「世界が何を求めているのか? そう考えた時、日本のモノ作りには、世界に誇れるブランドを生む力があると信じています。これを世界に発信していきたいのです」
かつてパリを拠点にブランドビジネスを牽引してきた齋藤峰明さんはそう語る。これまで三越のパリ駐在所所長、エルメス・ジャポン代表取締役社長、エルメス・インターナショナル上級副社長と、いわゆる“ブランド”の王道を歩いてきた齋藤さんの言葉には含蓄がある。私たちはブランドと聞くと、つい海外に目を向けがちだが、そもそもブランドの定義とは何なのか?
「ブランドとは、日本でいうところの“のれん”のようなものです。長い歴史のなかで培ってきた品格、顧客との信頼関係。エルメスではブランドという言葉は使わず、MAISON=メゾンといいます。それは独自の家風を持つ家とでもいいましょうか。のれんに近い意味がありますね。ヨーロッパ、日本には、そうした伝統を生むモノ作りが根付いています」
一方で、時代を超えて続く信頼関係は、時代に合わせた革新を常に行ってきたということでもあるという。
「だから実際にパリで生活していると、日本のモノ作りに共感するフランス人が多いことに気づかされます」
パリから日本を見つめ直す


日本の外にいるからこそ気づく、自分のアイデンティティというものがある。一歩外に出ることで、己を客観的に見つめる“俯瞰の目”が生まれ、世界は一気に広がって見えてくる。
「パリ駐在員時代には日本の仲間からは『非常識な人』と思われていました。ちょっと変わった芸術肌の人、みたいに。でもそれは私にとっては好都合で、自分自身も非常識であることを楽しんで、常識にとらわれず新しいことに挑戦してこられたのです」
そんな齋藤さんが今、日本で情熱を傾けているのが、日本らしいモノ作りを海外に発信すること。シーナリー・インターナショナルでは、日本独自のライフスタイル創出のため、さまざまな商品提案を行っている。また住環境や商空間、農村活性化、街の創出などその取組みは多元的だ。なかでもユニークなのが、いままでこんなもの見たことない! という不思議な履物、イグアナアイ「FS」の展開だ。
「デザイナーのオリヴィエ・タコに会って、この履物を見たとたん、これは何とかして世に出さなくてはいけないと思ったんです。彼の作る履物は常識を超えた新しいもので、本物のデザインに巡り合ったと実感しました」
感覚に目覚める履物、イグアナアイ「FS」

アマゾンに暮らすインディオ達の生活にインスパイアされたというフットウエアは、まるで裸足で歩くような皮膚感覚。素足をカラフルな樹脂で包み込むようなデザインで、実際にはいてみるとそのはき心地は、どちらかというと足袋や草履に近い。
「日本人はもともと、裸足に慣れ親しんできました。畳や縁側を歩く感触。足袋や草履で感じた地面の感触。足から自由になることで、もう一度日本人ならではの感性、そして人間本来の感覚を、取り戻すことができればと願っています」
齋藤さんは「これだ!」と共感してからすぐに友人達に声をかけ、わずか半年でブランドを立ち上げ、青山に店をオープンさせてしまった。
「夜中に仲間に電話して、みんなでやろう!と意気投合しました。今までは会社という組織で動いてきましたが、小さな個人の想いであっても、そこに信念があれば実現に向かって広がっていくものです。これからは私のこれまでの経験を活かして、若い世代の面白い発想を支援していくことも行っていきたいですね」
愛着のわくエルメスの特注手帳カバーとビジネスバッグ


そんな齋藤さんが愛用しているのは、エルメス特注の手帳カバーとビジネスバッグ。
「移動中でも、どこでも、パッとひらめいたことをメモしています。手帳の中身は伊東屋の100円のリフィルものですが、5mm以下のこの薄さが上着の内ポケットにもすんなり馴染みます。モンブランのペンは、24年前に三越を辞めた時に同僚からもらったもので、ずっと愛用しています」
手帳を開くと、中にはぎっしり鉛筆書きで齋藤さんのアイデアが書き込まれている。いわばネタ帳である。一方、バッグはエルメスの入社時に社長から贈られたもの。
「8年前、当時のマネージャー全員に贈られたんですが、使い込むほどにそれぞれの個性が出てくるんですよね。会議などで集まって、ズラっと同じバッグが並んでいても、自分のものがどれかわかるんです」
伝統的な技で作られたシンプルなレザーバッグ。使い込むほどに滲み出る、持ち主の個性は、いつか自分らしい形となる。時代を超えて愛されるモノ作り、ブランドの理想形がそこにある。ひらめきを逃さないこと、信頼の形を体現すること。それは齋藤さんの変革力の血肉となっている。
齋藤峰明さんの変革力
1. 日本の外から、本質を探れ
2. 非常識であることを楽しめ
3. ひらめき、直感力を逃さず行動
【プロフィール】
齋藤峰明 さいとうみねあき
シーナリー・インターナショナル代表。1952年 静岡県生まれ。パリ第一(パンテオン・ソルボンヌ)大学芸術学部卒業後、フランス三越に入社、その後三越に入社し、パリ駐在所所長を経て、エルメスに入社。エルメスジャポン社長ののち、2008年〜2015年まで同フランス本社副社長を務めた。
現職のほか、イグアナアイ総合プロデューサー、アトリエ・ブラマント(パリ)総合ディレクター、ライカカメラジャパン取締役、パリ商工会議所日仏経済交流委員会理事などを兼任。フランス共和国国家功労勲章シュヴァリエ叙勲。
今年10月には虎屋社長の黒川光博氏との共著『老舗の流儀 虎屋とエルメス』(新潮社)を発刊した。
Photo:Tatsuya Hamamura
Text:Michiyo Azuma

東ミチヨ
ライフスタイルジャーナリスト。ソーシャルオーガナイザー。大手アパレルの企画、コピーライターを経て独立。雑誌、広告等では、ブランド哲学×モノづくりを得意テーマとしてきたが、もの書きだけじゃ飽き足らず、2011年からはリアルな場でのソーシャル活動も開始。地域の人々や行政などいろんな主体を巻き込んで、小さな変革!の波を広げようと奮闘。H27年度グッドライフアワードにて環境大臣賞受賞。一般社団法人スマート・ウィメンズ・コミュニティ代表理事として、各種ワークショップなども主催。趣味は山登り、自転車、スローフード。神奈川県出身。
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