COLUMN

【連載】先人に聞け! 第1回 メンズファッションディレクター赤峰幸生氏

2016.10.21 2016.10.21
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2016.10.21

干場:先日まで、NHKの朝の連続テレビ小説では『暮しの手帖』の初代編集長のドラマが放映されていましたが、赤峰さんはお会いした当初から、一番大切なのは『暮しの手帖』みたいな生活だよね、っておっしゃっていましたよね。

©gettyimages

赤峰:自分の人生の考え方というのは、あまり変わりませんね。自分の作る服が、着る人たちにどう役立てるのか、を考えてきました。例えば服を着る人は、年収1500万や2000万円の人がアベレージではないですよね。そう考えた時に、僕が凄いなと思うのは、代官山の蔦屋書店です。あそこでは1階のファミリーマートで100円のコーヒーが飲める。奥のスターバックスへ行くと350円のコーヒーが飲める。で、2階へ行くと、一杯800円のコーヒーが飲める。3層になっているんです。でも、本は所得に関係なく誰でも読めるようになっている。

干場:そうですね。

赤峰:そういう視点で、服にも向き合っていくというのはどういうことだろう? 何がラグジュアリーで、何がセレブなんだろう?と考えますよね。暮らしの現実というものがある。かっこいい服を着るというのと、きちんと服を着るというのはまた別のものですよね。きちんと着るというのは、自分で洗濯もするしアイロンもかける。それは、生活そのものが整っているということの表れでもある。土鍋でご飯を炊いて、朝ごはんをきちんと食べる。それで、魚沼産こしひかりでなくとも、美味しい炊き立てのご飯を食べる。そういう事を服に例えたら、どういうことになるのか、と考えますよね。

干場:なるほど。そういう赤峰さんに教えていただいたことが、今の自分の基になっているような気がします。今、エコラグというものを提唱しているんですが、長く使えるものは良いものを買っても、毎日使う消耗品のシャツなどは5000円くらいのもので十分という、考え方なんです。全員が、湯水のようにお金を使えるわけではない。だから適材適所で、良いものと安いものを賢く取り入れていくということを考えるようになりました。話しは変わりますが、これからはデジダルの時代になるということでデジタル媒体に力を入れているんですが、これからは、どんな雑誌が生き残っていくと思いますか?

赤峰:基本に戻ったほうがいいのではないかな。瓦版的な。

干場:瓦版ですか!?

赤峰:江戸時代は、ニュースを刷って配っていたわけですよね。そこには広告主はいない。自分達で選んで書いた記事を載せていたんです。本が売れないということは、本を売っていく仕組みに問題があるんです。若い方の興味のパターンって大体決まっていて、ファッションや食べること。女性ですと、ファッションや美容。でも、それらをすべて一度やめて、何が必要なのかを考えることですよね。もっと目線を変えてみれば、雑誌というものが、どういうものを扱うべきなのが見えてくるのではないでしょうか。

ロンドンのヘンリー・サザーランドという相当古い書店があるんです。1800年代、1900年代のものもあるんですが……。そこを訪れていろいろ見ていると、1800年代には告知するための手段として紙を使っていた、というのがとてもよくわかるんです。雑誌の始まりってこれですよね。それを鑑みると、雑誌とはどういうものなんだろう、と検証から始めてみるといいのではないかと思います。

パリのパレロワイヤルの奥にガルガンテという書店があって、ここも面白いものがあるんです。普通あまり見せてもらえないのですが、1800年代からのル・モンドが揃っているんです。真似をしろとは言いませんが、これらを眺めていると、雑誌などのあるべき姿、原点や未来の姿が見えてくるんです。

干場:温故知新ということですね。

赤峰:そうですね。また、洋服屋が洋服のことだけをやっているんじゃ見えない、食べること、住むこと、憩うこと、さまざまなことに対して知っておかないと服が硬くなる。本質的なところでは、食べることの方が大切であったり、食欲の方が勝っているんです。

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朝食を食べた後でも、今夜、何食べる? あれ、食べたいなって考えるけれど、服ではあまりないですよね。昔、今の東京の場所は無数の大麻が棲息していたんですよね。今の多摩川の辺りなど多かったんです。多摩川の摩も、麻という字の下に手を書いていますよね。でも昔は手がなくて、多麻川だったんです。川の流域にある麻を採って幹の部分を繊維にするために叩くんです。その叩く場所が砧だったんです。さらにそこで織り上げたものを売る場所が麻布だったんです。

干場:そうなんですね、知りませんでした。

赤峰:日本人が古来から着ていたのが麻で、冬の寒い時には麻の着物を三枚も四枚も重ねて着ていたんです。江戸中期から綿が入ってきて、江戸末期にウールが入ってきたんですね。そして麻と並んで使われていた素材は絹だったんです。日本の山繭という自然から採れる絹は、強くて染料でもなかなか染まらなかったんです。

干場:そうなんですね。シルクってデリケートな反面、強いですよね。

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赤峰:皇室では、今も蚕を育てていらっしゃいますよね。そういうルーツを探って、それらを未来に繋げていくことがとても大切だと思っているんです。生活の基盤を大切にした雑誌がいいのではないかと思っています。進化した男版『暮しの手帖』みたいな。

干場:進化した男の『暮しの手帖』ですか!

赤峰:そういう雑誌は見たことないですね。男の料理で、素材も有機のものできちんと素材の味を大切にしたものを使って作る、みたいな。右ページは食べること、左ページは着ること、と並列で載せても面白いんじゃないでしょうか。花や茶を載せてもいいですよね。これからは文化を継承しつつ、嗜みをきちんと伝えたいですよね。よい服を着ていても、肘ついてざらざらパスタを食べているようでは駄目ですといった風刺画みたいなのが入っていても面白いですよね。

干場:ヨーロッパの新聞みたいですね。すごい面白いお話、ありがとうございます。僕、赤峰さんに初めてお会いしたのが23歳頃で、こんなカッコイイ大人がいるんだ!と感動したんです。赤峰さんから、イタリアやクラシックを教わった、と言っても過言ではないです。

赤峰:クラシックって奥が深いですよね。服飾以外でも、例えばクラシック音楽なんて200年以上前に作られたものが、今でも美しいと思える。

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干場:時代を超えるって凄いですよね。レオナルド・ダヴィンチ然り。1枚の絵を見て、皆がいろいろ考えたり、想像したりするって想像を越える世界で、それが何百年、脈々と支持されているんですよ。

赤峰:イタリアは20の州から成る共和国なので個別の文化がありますよね。その文化から生まれた工業がたくさんありますが、共通しているのは、「ア ファット ア マーノ(a fatto a mano)」で手作りってことなんです。だから手作りってことは(服や靴の)納期とかデリバリーって言葉がそぐわない(笑)。出来た時が納期なんですよね。人はいつか必ず死ぬんですが、軌跡を残すというのが大切なのではと思っています。毎日、良い服を着て、美味しいものを食べて、ホテルの夜景を見ても、軌跡は残らない。高いお金を出してそれらを楽しむのもいけれど、街を歩いていて、金木犀の香りを楽しんだり感じること、季節の移ろいを感じる贅沢や生きていく毎日をどう噛み締めていくのかを考えることが大切ですよね。

干場:日々を大切に生きるっていうことですね。

赤峰:とはいえ、毎日の忙しさで流されてしまうことも多いのですが、ここ最近は毎朝のラジオ体操は欠かさないようにしています。あの歌がいいですよね。新しい朝が来た、っていうのが。

干場:希望の朝!ですね。ラジオ体操はいいって聞きますよね。そこから始まるって感じですね! 明日から僕もやります! 生活のリズムから整えないといけないですね。頑張ります! 赤峰さん、ありがとうございました。

Photo:Tatsuya Hamamura
Text:Yoshie Hayashima

赤峰幸生
イタリア語で「出会い」の意のインコントロは、大手百貨店やセレクトショップ、海外テキスタイルメーカーなどの企業戦略やコンセプトワークのコンサルティングを行う。2007年秋冬からは『真のドレスを求めたい男たちへ』をテーマにした自作ブランド「Akamine Royal Line」の服作りを通じて質実のある真の男のダンディズムを追及。平行して、(財)ファッション人材育成機構設立メンバー、繊研新聞や朝日新聞などへの執筆活動も行う。国際的な感覚を持ちながら、日本のトラディショナルが分かるディレクター兼デザイナーとして世界を舞台に活躍。『Men’s Ex』『OCEANS』にて連載も。

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