原点回帰!「パックT」に見る格好良い40男像とは?
ファッション業界の賢人が編集長・干場に買わせたい逸品を価格帯別に紹介する連載第6回。ご登場いただくのは、雑誌『OCEANS』編集長、太田祐二さんです。今回のテーマはTシャツ。干場とは同世代でもあり、『LEON』編集部時代は同じ釜の飯を食べ、『OCEANS』編集部在籍時代は、編集長と副編集長としてコンビを組み、長い付き合いになる太田氏。果たして、どんな銘品が登場するのか!?
干場編集長(以下敬称略):今回は私と長年苦楽を共にした『OCEANS』編集長の太田祐二さんです。どんな逸品が登場するのか楽しみです。早速、梅からお願いいたします。

太田氏(以下敬称略):まず最初は、ヘインズのパックT。
干場:今もこれ売っているんだ〜。
太田:赤いほうは昔ながらのコットン100%のもので、青いほうはポリエステルが入っているタイプ。どちらもクルーネックです。ポリエステル混のほうは、コットン100%の着心地の良さとは、また違う良さがあります。
干場:ところで、なんでヘインズにしたの?
太田:ホッシーに気を遣って。(※干場編集長は以前ヘインズTシャツの動画対談番組のMCをやっていて、太田編集長にも出演してもらっていた)
干場:爆笑。
太田:昔、フルーツ オブ ザルームもあったけど、何から入った? パックTって。
干場:ヘインズかな。でも、そもそもなぜパックTにしたの?

太田:ホッシーにTシャツをすすめて欲しいってこの対談の依頼が来たときに、「やだよ、出来ないよ」って思ったんだよね。考えようと思ったんだけど、Tシャツなんて3つに絞れないな、と……。
干場:それは多すぎてってこと?
太田:そう。レタードだってあるし、プリントもあるし、Uネック、Vネックとか形もたくさんある。それにね、ホッシーにおすすめしたところで、着ないでしょ、アイツ、って思ったんだ。
(一同大爆笑)
干場:え、Tシャツ着るよ、普通に。あっ、着ないかも。
太田:人がおすすめしたものを素直に着る人じゃないの、ホッシーは。
干場:さすが、わかってるね~、俺のこと(笑)
太田:だから、なんなんだこの企画は。嘘っぽい企画だなって思ったんですよ。茶番だな、と(笑)
干場:茶番って(笑)。まぁ、今まで登場してくださった方の視点が面白くて、毎回セレクトも楽しみなんです。

太田:今まで登場してきた方々って一家言持っている方ばかりなんだけど……。ホッシー、それ、う~ん、って言っているだけでしょ?(笑) ホッシーは人当たりも良くて、人の悪口も言わないけれど……。興味ない時って、ニヤニヤしてうなずいていて、聞き流しているでしょ?
干場:さすが良くわかっている(笑)って、なんでやねん。ちゃんと聞いてるわ!!
太田:そう、だからいろいろ考えて、すすめても無意味だなって思ったんです。そこで原点に戻ってパックTにしたの。パックTって意外といろいろなブランドから出ていて、実は豊富なんです。基本的に男性ってパックT好きですし。
干場:通り越してきたよね〜、パックT。
太田:ヘインズは中高生の頃買ったTシャツでしょ。男が自分で買うアイテムの原点なんですよ。高校生の時、スペイン坂の下のオクトパスアーミーの前のドラム缶にパックTが山積みになっていたよね。

干場:あ〜、渋カジの頃ね。ところで『OCEANS』では、最近どんなTシャツを推しているの?
太田:沢山ありすぎて、これってなかなか言えないんだけど。ただクルーネックのTシャツかな? ホッシーは今日Vネックだけど(笑)。 クルーネックじゃないと、セクシーさを狙っている感じがするんです。
干場:俺は、今日はVネックだけど、クルーネックも着るよ。太田っちは、Vネックは着ないの?
太田:おいらはクルーネックのみ。あと白Tが多いかな。
干場:でも、Tシャツが格好よく見えるって永遠のテーマだよね。
太田:Tシャツを着て格好よく見えたいって、若い時も歳をとった今も多くの人が思っているんだよね。ただ若い時の見え方とオッサンになってからの見え方って違うんですよ。
干場:その違いって、なに?
太田:よく男性誌で何かにつけ挙がる白洲次郎のTシャツにジーンズ姿の写真があるんだけど、本当に何気ないのか狙いなのかわからないけれど、なんてことないシンプルなスタイルなんです。でも、全体を通して男の魅力が伝わってくるよね。ああいうのが、オッサンの目指すTシャツスタイルなんじゃないかな。
干場:俺自身はTシャツだけ似合うっていうのはあまり好きじゃないんだよね〜。この人、Tシャツが似合うけど、きっとタキシードなんかも似合っちゃうんだろうなって思わせる人が好き。大人の男性としてね。

太田:Tシャツとデニムの組み合わせが似合うって、そういうことだよね。Tシャツが似合うというだけの話ではなくて、最上シンプルが似合う男性というのは、向こう側に見える男としての魅力があるんだよね。
干場:それがないと似合わないってこと。
太田:吉田栄作さんがデビューした頃にハイウエストのデニムに白Tを着てたよね。
干場:あれは格好良かった。先日、ラジオ番組にご登場いただいて、ご本人にお目にかかったんだけど、とても格好良かった!
太田:じゃあ、ホッシーさ、Tシャツが似合う男を挙げてみて。まずね、桑田佳祐さん。
干場:う〜ん、リチャード・ギア。
太田:江口洋介さん。
干場:吉田栄作さん。

太田:ポール・ニューマン。

干場:そうきたら、スティーブ・マックイーンかな。
太田:似合うね。じゃぁ、干場義雅。
干場:いろいろ気を遣ってくれているね(笑)
太田:やはり白洲次郎さんかな。ブラッド・ピットは?

干場:そうだね! ナンバーワンはブラッド・ピットかな? あとトップガンのトム・クルーズのTシャツ姿も格好良かったなあ。
太田:ある程度、身体がしっかりしている人のほうが似合うのかもしれませんね。
干場:あとは存在感だよね。例えば、桑田佳祐さんは体格がいいというよりご本人にオーラがあって着こなしている。そういう意味では白Tって、ごまかせないアイテムだよね。
太田:でも、ホッシーはTシャツの着こなし方とか似合う方法を知っているんだよね。ホッシーは「似合い研究家」だから。
干場:似合い研究家!?!?!!?!?(爆笑)。 新たな肩書が…(笑)。今度から、プロフィールにそれ入れようかな。

太田:30歳くらいまでは見た目重視だったけれど、今は内面も含めて考えているよね。丈感とかバランスを見てすごい研究していた。以前、ホッシーはかなり細くて、普通のTシャツを着ると袖がぶかぶかしてしまう。ただ単にサイズを小さくするとボディがピタピタになってしまう。風に吹かれるとボディに少しドレープが出るっていうのが理想のサイズなんだけれど、まずそのボディに合うサイズのものを買って、中野のお直しやさん(浅野洋服店 ☎03−3385−5671 http://www.asano-fuku.com)に出してTシャツの袖の幅を直していたんですよ。
干場:そう。ヘインズのTシャツを買って、お直しに出してた。Tシャツよりお直し代金のほうが高かったという。
太田:先ほど、身体がしっかりしているほうがTシャツが似合うって話が出たんだけど、当時のホッシーは今より痩せてて、身体がないなら、Tシャツを改造してしまえ、っていう発想だよね。だから似合い研究家なの。ホッシーは、自分で似合うものをもう知っているから、この企画は茶番なんですよ(笑)
干場:(笑)では、次!!

太田:次はデンハムのパックT。こちらは2万7000円(税抜)です。とにかく形と素材がいい。
干場:3枚で、ということは1枚9000円。これディテールが面白いね。
太田:白2枚、グレー1枚のセット。裾には、ちらりと可愛いアクセントが。生地が厚くて、洗ってもなかなかヘタレないので、長く着られるんだ。
干場:今日、太田っちが着ているのもデンハム?

太田:そう。これは5回くらい洗ったかな。あとね、これがすごい所なんだけど、首の詰まり具合って人によって好みがあるでしょ? これは最初、ほどほどに詰まっているんだけど、自分で着るときに伸ばせるんだ。で、洗うと、また元に戻るんです。ヘタレないの。綿なんだけど、復元性が高い。
干場:まるでゴムが入っているみたい! すごいね。しっかりしている。シルエットも少しゆるっとしていて今っぽい。これ、メイドインジャパンなんだね。デンハムってオランダのブランドだよね?
太田:そう!
干場:シンプルなのにこだわりを感じる画期的な1枚だね。では、次!

太田:プラダのTシャツです。2万7000円(税抜)です。
干場:一見、ヘインズっぽい……。でも素材が良い!
太田:上質なコットンを使用しているから、とっても肌触りが良いんだ。
干場:あ、これステッチの入り具合とかミニマルで、さすがプラダ。さらっとしていて気持ちいいね。首のリブの処理が綺麗。

太田:以前よく着ていたんだよね。肌触りがよくストレッチが効いていて着心地がよいっていうのもあるんだけど、シンプルでそれほど強い主張があるわけじゃない。この首の後ろのトライアングルタグにプラダらしさがあって、そこにまた魅力があるんだよね。
干場:このタグ、中にあったほうがいいんじゃない? でも、この三角がプラダ!ですっていう密かな主張があるね。ところで『OCEANS』のタイトルに、今無難な服を着たいってあるけれど、これも無難な服なの?

太田:無難ってネガティブな意味に取られがちだけれど、難がない、という意味ですよね。意図的に難があるものや主張の強いものを選ぼうとするファッションもあるんですが、今、難がないものを選びたいな、というのが世の中の気分の主流だと思うんだ。ちなみに、ショップで店員さんがお客様から言われる言葉で一番多いのが「無難なのはどれですか?」なんだそうです。
干場:へえ~。皆、無難なモノを求めているだね。
太田:例えば、女性になにかプレゼントしなくちゃいけないってなったときに、わからないでしょ? そんな時お店で、「こういうタイプの女性なんですけど、無難なものなんでしょう?」って尋ねるでしょう。あと、例えば我々の年代で、スニーカーが欲しい、となった時に、今の流行がわからない。定番モノが好き。でも何か今っぽいものが欲しい。そんな時に「無難なモノ」を求めるんですよね。定番の別注モデルとか。あまり頑張ってお洒落している風は格好悪いけれど、普通じゃイヤなんです。普通と無難は違うんですよ。
干場:なるほどね~。無難って深いんだね。ちなみに今日のファッションを教えて。

太田:Tシャツはデンハム、スニーカーはジャックパーセル。
干場:これ最近のジャックパーセル? ちょっと変わってるね。
太田:うん、無難なジャックパーセル。チノパンは昔のGAP。Gジャンはミントデニム。ブレスレットはネサンス、キャップはパタゴニアかな。
干場:これホノルルって書いてあるけれど、ホノルルでしか買えないの?
太田:そうです。無難なパタゴニア(笑)。ホノルル店でしか買えないヤツかな。ところで、ホッシーが今日着ているTシャツはどこの?
干場:これは、無難なGAP(笑)。最近着るTシャツはほとんど無難なGAP。人からいろいろ勧められて試してみるんだけど、やっぱりGAPかな。
太田:やっぱり、そうなんじゃん(笑)。この企画、ホント茶番だ! ところで今日挙げた中では、ホッシーはどれがいいと思ったの?
干場:う~ん、この中なら、俺は素材フェチだからプラダかな……。でも、俺ならタグを取って着ちゃうと思う。そう考えたら、まったく何も装飾のないヘインズのTシャツが、やはりベストかもね。ヘインズほど、格好つけてないブランドないしね〜。ヘインズの白のTシャツをさらっと普通に着てるのに、タキシードが似合うと思わせる大人になりたいしね。今日は、どうもありがとうございました。
Photo:Naoto Otsubo
Text:Yoshie Hayashima

太田祐二(おおたゆうじ)
大学卒業後、一般企業に勤める。その後、転職し「LEON」編集部へ。『OCEANS』創刊に携わり、現在、編集長を務める。趣味はサーフィン。