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「○○のガン」は患者に失礼!? 安易な「言葉狩り」はもう止めませんか……

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講演、メディア出演、執筆などを通じて、炎上の「火消し」からフェイクニュース対策まで幅広く発信している小木曽健氏によるネットニュース分析、推察コラム。

先週、あの鳩山由紀夫氏が「『○○のガン』という表現は良くない、ガン患者の気持ちを考えろ」とSNSに投稿され、ネット界隈で温かな笑いを誘っておりました。

自民党の麻生太郎氏が、安保関連で政府の意思決定が遅れたのは「公明党がガンだったから(反対したから)」と話したそうで、鳩山氏はこれがお気に召さなかった模様。まあ「あの」鳩山氏ですから、その発言にいちいち反応してたらキリが無いのですが、でも

「必死にガンと戦っている方々を思う心がない」

なんて言われてしまうと、ちょっと捨て置けないんですよね。実は最近「○○の気持ちを考えろ」的な言葉狩りがやたらと増えており、例えばSNSでよく見かける「飯テロ」という言葉。これに対して

「テロ被害者の気持ちを考えろ!」

と批判している人がいるんですよ。この夏には「コミケは戦場だ!」(暑さとの戦いという意味で)という投稿に対し「戦場にいる人達への配慮がない」と批判する人まで……うーん、そうですか。

言うまでもなく、こういうのって、その言葉が「どういう文脈・意図で使われているか」が大事ですよね。地雷系女子は爆弾を抱えた女の子、という意味じゃないし、受験戦争は合否をかけた戦闘行為じゃない。最近のスポーツ報道でよく使われる「下剋上」だって、相手チームに対する殺人クーデターじゃないことは誰もが理解しています。無論、その言葉で誰かを傷つける意図が無いことも明白です。

「いや、そうは言っても傷付く人はいるはず」と主張される方もいますが、それ言い出すと「幸せそうなファミリー」や「フサフサな毛髪の人」だって、その存在自体が確実に誰かの心を傷付けてしまうワケで、ホントもう、言い出したらキリがないんですよ。

もちろん、そういった表現に対して「不適切だ、不愉快だ」と表明するのは自由です。でもそれが「不適切だからやめろ!」になった瞬間、話はガラリと変わります。だって

「その『やめろ!』発言が不適切だからやめろ!」

って言い返されたら何も言えなくなるじゃないですか。お互いの表現の自由が「自殺」する瞬間です。

表現の自由はガマン大会

この話をすると「表現の自由ってもっと高尚なものでしょう。低俗なものまで守る必要あります?」と言われる方が必ず現れるんですが、むしろ逆ですよ。違法性が無く、公共の福祉に反しないモノなら、低俗で下品でバカみたいなモノも含め、すべて守る、これが「表現の自由」。

誰かが「これは保護すべき」「これは保護しなくてOK」なんてジャッジしちゃダメなんですよ。

当たり前ですが、表現の自由は「心地よくて明るい言論世界」ではありません。気に入らないけど、違法でない限り認める。嫌いだけど、公共の福祉に反しない限りガマンする、そんなお互いの忍耐力によって成り立つ、壮大なガマン大会、これが表現の自由なんです(実は「多様性」と凄く似ています)。

こんな吞気な議論ができるなんて、少なくとも今の日本は「平和」だということでしょう。ガンの医療体制は、他国と比べても遜色ないレベルで整備されているし、悪夢のようなテロは、その発生頻度が他国より少ない。敵兵が領土内で地雷を設置するような状況も(少なくとも今は)起きていません。

大切なのは、物騒な単語も平和な意味で使える今の社会状況を維持することですよね。それらが失われたら、SNSで下らない言葉狩りをしてるヒマなんて、もう一瞬でなくなりますから……。

 

Text:小木曽健(国際大学GLOCOM客員研究員)

※本記事のタイトルはFORZA STYLE編集部によるものです。


 



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