ドレスシューズでサイドエラスティックというディティールに衝撃!?
人生には、どうしても手放せなかった服、そう「捨てなかった服」があります。そんな服にこそ、真の価値を見出せるものではないでしょうか。そこで、この連載では、ファッション業界の先人たちが、人生に於いて「捨てなかった服」を紹介。その人なりのこだわりや良いものを詳らかにし、スタイルのある人物のファッション観に迫ることにします。成毛賢次さんに続いて登場するのは、ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さん。
中村さんが膨大な数を所有してきた中でも捨てられなかった服をご紹介する企画の第8回目は、ポールセン スコーンのサイドエラスティックシューズです。
89年に『ブルータス』が英国靴特集をして、イギリス靴の人気が爆発した時代があったのですが、その少し前にビームスが「ポールセン スコーン」の靴を初めて取り扱い始めました。当時、ビームスで英国靴と言ったら「チャーチ」が一番メインのブランドだったのですが、初めてビスポークのシューメーカーが手掛けているレディメイド(既成)の靴を買い付け始めたのです。
ビスポークではサイドエラスティックの仕様にダミーレースが付いてるモデルというのはあったのですが、初めて既成靴でビームスがオーダーしたのが、この靴でした。
当時は無骨なイギリス靴を展開していましたが、ビスポーク由来のレディメイドを買い付けること自体が初でしたし、「こんなディティールのドレスシューズのがあるのか?」という驚きもあって、スタッフがよく買っていました。しかも、これにダミーレースが付いたビスポークをオーダーするスタッフもたくさんいましたね。僕にとっても、かなり衝撃的な靴でした。
実は最近、コレは履けるかなと思って、引っ張り出していました。というのは、当時流行っていたチェンジポケットとかサイドアジャスターのパンツなどが再注目されていますよね? まさにそういうブリティッシュなスタイルに合わせていた靴なので、時代が廻ってきて、もの凄く思い入れがあるのも影響して、最近また履けそうだなって思っていたところだったのです。
当時の「ポールセン スコーン」で捨てていないのは、コレと外羽根のダービーのストレートチップでタバコスエード、この2足だけ。ダービーの方はどちらかというとカジュアルな靴だったのですが、コレはフォーマルなドレスシューズでサイドエラスティック。とにかく初めて見たカタチだったので、インパクトが強くて思い入れもあって、捨てられませんでしたね。また履けそうですし。
80年代に英国靴ブームが来て、その直前に入って来たモノで、お得意様とスタッフの中でかなり流行ったモデルでした。
ウィンドウペーンのチェンジポケットが付いたスーツに合わせて履きたいなとは思ったのですが、いま履くとトゥが丸いのと、カカトが結構抜けるなって。だから、なかなか実際には履けておらず…。ただ、気分ですし、また新鮮なので、あるブランドで復刻させようかなと思っています。
Photo:Naoto Otsubo
Edit:Ryutaro Yanaka
ビームスクリエイティブディレクター
大学在学中よりBEAMSでアルバイトをし、卒業後ショップ勤務、店長、バイヤーを経て現在はクリエイティブディレクターとしてドレス部門を統括。メンズのドレスクロージングに関するセレクトや論理的な解説が持ち味で、媒体での連載や自身のブログ”ELEMENTS of STYLE”は絶大な人気を博している。