今でも値段がハマるなら展開したいくらいの思い入れ
人生には、どうしても手放せなかった服、そう「捨てなかった服」があります。そんな服にこそ、真の価値を見出せるものではないでしょうか。そこで、この連載では、ファッション業界の先人たちが、人生に於いて「捨てなかった服」を紹介。その人なりのこだわりや良いものを詳らかにし、スタイルのある人物のファッション観に迫ることにします。成毛賢次さんに続いて登場するのは、ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さん。
中村さんが膨大な数を所有してきた中でも捨てられなかった服をご紹介する企画の第6回目は、「ジャーミンストリートシャツメーカーズ(Jermyn Street Shirt-makers)」のシャツです。
90年代に入ると本格的に"英国ブーム"がやってきて、サヴィルロウとかジャーミンストリートとかイギリスの本格的な老舗で展開しているような服が どんどん日本に入ってきました。そんな中でビームスが一番最初に買い付けたのが、ジャーミンストリートシャツメーカーズでした。
当時、ターンブル&アッサー(Turnbull & Asser)のファクトリーとも言われていたところのシャツなんですが、フルカットボディと言われていて、着丈も長くて、とにかく大きい(笑)。これがカブレだって教えられて、入ってきたモデルなんです。
実際、初めて買い付けたのは80年代中頃だったんですが、本格的にバイイングしだしたのは80年代後半。前立ても真ん中にステッチが走っていてイギリスのシャツらしさがあるし、襟はセミワイド、まったく絞りもなくて着丈がとにかく長い。袖はダブルカフスなんですが、あの頃はシングルカフで3つボタンとか2つボタンとか、ジャーミンストリートにはいろいろなシャツ屋がありましたけど、イタリアモノのシャツが入ってくるまではビームスFのシャツと言えば、英国的なシャツというイメージを築いていました。
その中でもスティーブン ブラザーズ(STEPHENS BROTHERS)というシャツ屋と、ここの2つがあって、ジャーミンストリートシャツメーカーズが本格的なイギリスのシャツを作るメーカーとして一時期ビームスFの主力商品でした。
他にもストライプやタッターソールなど色々持っていたんですが、この刷毛目(ハケメ)のブルーのシャツっていうのが、スーツやジャケットを着る際に最も重宝していました。そして、僕がバイイングしたアイテムの中で最もイギリスっぽい、クラシックかつ伝統的なブランドでしたし、一番袖を通したと思います。
他のシャツは痛んで捨ててしまったんですが、コレだけは捨てられない。ダブルカフスなんで角がボロボロ削れてしまったんですが、一度カフスを裏返しにして着ていたくらい。
イギリスのシャツってカフスを裏返しにして着たり、襟を裏返したり、襟が痛んだら白い襟に替えて着るとかが一般的で、僕も日本の修理屋で直して貰いました。その後も着続けたのでボロボロでもう着られないんですけど、捨てられないで取ってありますね。
タグもカッコいいんですよね。昔はもっと大きかったんですが、そのシャツはさすがに残ってません。名前もベタなんですが、それもイギリスっぽくて良かった。正直、ボディを今っぽく直して、このシャツが昔のままの値段で出せるなら買い付けたいなって思っています。ただ、今イギリスのシャツ屋で作るとイタリアのシャツ屋より高くなってしまう。だから実現しないんですが…、今もやりたいなと思っているくらい思い入れのあるブランドですね。
Photo:Naoto Otsubo
Edit:Ryutaro Yanaka
ビームスクリエイティブディレクター
大学在学中よりBEAMSでアルバイトをし、卒業後ショップ勤務、店長、バイヤーを経て現在はクリエイティブディレクターとしてドレス部門を統括。メンズのドレスクロージングに関するセレクトや論理的な解説が持ち味で、媒体での連載や自身のブログ”ELEMENTS of STYLE”は絶大な人気を博している。