当初の8人はすでに1年以上、お教室に通っているお仲間。おしゃべりのなかで必然的にお互いの個人情報を知り尽くしている。
「8人での話題には、時々彼女も出てきていました。それは大抵自慢話ばかりするよねとか、ちょっと面倒よねとか、ネガティブなものだったので入会したと聞いたときにはちょっぴり気まずいなとは思っていたんです」
いざ、彼女が教室に通い始めると予想どおり、子ども自慢、そして学歴マウントの嵐。周りは1回ですっかりうんざりしてしまったんだという。
「聞きたくもない自慢話ばかりされて、せっかくの憩いの時間がストレスになってしまって……。極め付けは彼女が放った問題のひとこと」
ーーー橋爪さんの家のお義父さま、中卒なんですってねーーー。
「びっくりしましたよ。確かに義父は中卒です。でも当時はそう珍しいことでもなかったようです。それに中卒だからって、何なのでしょう。農家である家業を手伝ったまで。そんな昔の話まで引っ張り出してきて、学歴マウントを取るなんて、さすがにひどいと思いました」
とはいえ、反論して更なる騒ぎになるのも困る。相手は街にひとつだけの町医者の妻である。
それからというもの優子は華道教室から足が遠のいていったという。自慢話を聞くのも面倒くさかったし、また何か言われて嫌な想いをするのもごめんだった。周りの仲間は心配をしてくれたが、程なくして華道教室をやめることにした。
それからしばらく経ったとき、ある衝撃の事実が発覚する。
「向かい側の家の奥さんと玄関先でおしゃべりをしながら、収穫してきた山菜の掃除をしていたんです。ちょうど4月の終わりだったこともあり、卒入学の話題になりました。するとね、向かいの奥さんがびっくりすることを言い始めたんですよ。なんでも町医者の家の三男坊が希望の高校に入学できなかったらしく、そのことで夫婦喧嘩をしていたっていうんです」
-ちょっと聞いちゃったんだけど、三男坊が入った学校はね、電車で1時間以上かかる場所にある偏差値低めのヤンキー学校らしいの。それでね、そのことで夫婦で言い合いをしていたのよ。
そのとき、なんと言ったと思う?「DNAの半分はおまえの中卒の頭だからな」って。びっくりしちゃったわよ。だって、大学卒って言っていなかった?あの奥さん。
優子はびっくりして返事をするのを忘れるほどだった。中卒の義父を見下した本人が中卒だったなんて……。この直後、個人情報が筒抜けの集落で、町医者の評判が地に堕ちる事件が勃発したという。次回へ続く。
取材/文 悠木律