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上川外相の「生まず」発言でマスコミによる「マルインフォメーション」フェイクが、危険ラインを飛び超えた

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講演、メディア出演、執筆などを通じて、炎上の「火消し」からフェイクニュース対策まで幅広く発信している小木曽健氏によるネットニュース分析、推察コラム。

先週末、ネットニュースは「うまずして何が女性か」という謎の見出しで溢れ返りました。

上川陽子外相が静岡県知事選の応援演説において「一歩を踏み出したこの方を、私たち女性が生まずして何が女性でしょうか」と発言したことに対し、「出産が困難な女性への配慮に欠ける」と批判する一連の記事、だったんですが……本気ですかね?

女性の支持者を集めた場で、候補の当選を後押しする文脈での発言であり「女性のパワーでこの候補者を知事にしよう」という、それ以上でもそれ以下でもない発言だったのに、記事の「見出し」の多くが、

「うまずして何が女性か」

と、あたかも上川氏が、出産しない女性は女性ではないと言い放ったように切り取り、早トチリな読者はもちろん、学者先生やジャーナリストまでが「差別発言だ」と反発したのです。あの……記事の中身はちゃんと読まれたんでしょうか?

だってあの発言がダメなら「〇〇を生み出す、生み出さない」という表現に女性要素を絡めた時点で全てアウトになりますよ。言葉狩りもこのレベルに至ったら流石にコントです。

今回、特に悪質だったのが、記事が掲載された当初は「うまずして」ではなく「産まずして」と意味を限定した表記にしていた点。本来、当選させるという文脈なら「生まずして」が適切な表記なのに。

外部から指摘されたのか、その後どちらにも解釈可能な平仮名に修正。これが「うまずして」なんて妙な見出しになった経緯です。この一蓮の動き、実は「マルインフォメーション」と呼ばれる立派なフェイクニュース仕草なんですよ。

フェイクニュースって、意図的なウソや勘違いによるデマのほかに「内容は事実だが、切り取りや誤った解釈・勘違いを誘引する表現」もマルインフォメーションというフェイクに分類されます。マスメディア自身がコレやってどうするんですか?

しかも掲載最初は「今後、問題発言だと指摘される可能性が~」という推測記事だったのに、その後わざわざ対立野党に批判コメントを言わせ、文章を「指摘の声が上がっている」に書き換えたメディアもありました。やっていることは、もやは「指摘」の創作でしょう。

私はいつも学生さんに、「記事や文章の中に

議論を呼びそう

懸念される

反発は避けられない

不安の声が聞こえる

波紋が広がっている

などの表現があったら、それは書き手の願望か推測だから気を付けて」と口酸っぱく伝えているのですが、願望や推測を自ら具体化させた上で、記事まで修正されたらお手上げです。

日本のマスメディアは、ネット上の見出しや本文をカジュアルに修正し過ぎるきらいがあるので、せめて「いつ、どこを修正したか」くらいは残して欲しい。情報リテラシーの基本です。

報道の自由大国ニッポン

情報=人間が伝えるモノである以上、その情報にある程度の意図、狙いが紛れ込むのは仕方がないし、それが情報の宿命でもあります。ですが今回のケースは、ちょっと度を越えた、自分たちの存在価値をぶち壊す行為だったのでは。

日本は「報道の自由度ランキング」という謎ランキングで常に低位置をキープしているそうですが、今回のケースを見るに、日本は報道の自由が機能し過ぎて最高だなって感じます。自由過ぎです。

結局、上川外相は例の発言を撤回しました。真意と違う形で受け止められる可能性があるという指摘を真摯に受け止める、だそうで。恨み言の一つも言わずに。

この数日は、表現の自由とか正確な伝達とか、マスメディアの矜持といった大切なものが、少しずつ壊れていく過程を見ているようでした。批判に便乗した野党議員も、政権取りたいなら、もうちょっと、そういった点に危機感を持つべきでは。ほんと勘弁して欲しい。

 

Text:小木曽健(国際大学GLOCOM客員研究員)

※本記事のタイトルはFORZA STYLE編集部によるものです。



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