「話題として話をしただけで、自分がすることは話していません。それなのにものすごい剣幕だったので驚きました。母は卵子凍結なんて妊娠を先延ばしにしているだけだと言うんです」。
諒子さんの母は1963年生まれの60歳だ。
「母は教師で、昨年定年を迎えて退職しました。シングルマザーで私たち姉妹を育てるのは、本当に大変なことだったと思います。ここまで育ててもらったことには本当に言葉では言い尽くせないくらい感謝をしています。だからこそ、今回の意見の相違は結構、ショックでした」。
これまで、母と意見の相違はなかったのだろうか。
「父がいない分、私たち姉妹を立派に育てることに一生懸命だったと思います。1人で父と母、2役をこなそうとしていたからかいわゆるべったりとした母娘という感じではなかったですが、どんなときでも私たち姉妹の背中を押してくれるような存在でした。時折、厳しすぎると感じることもありましたけど。だからかな、恋愛とか結婚といった相談をすることは少なかったかもしれません」。
諒子さんは卵子凍結の話題に触れたことにより、今まで知らなかった母の一面を知ることになる。
「卵子凍結だけでなく、体外受精に対しても懐疑的だったんです。体外受精の末、生まれる子供のことを昔は試験管ベイビーと呼んだなんて話をされました」。
今や、不妊治療やそれに伴う体外受精は特別な話ではない。厚生労働省が発表する2021年の総出産数から考えると11人強に1人が体外受精で生まれたことになる。
「母に言わせると体外受精は自然の摂理に反していると。本来、生まれるはずのない命を人が作り出しているのだと言い切られてしまいました。子どもは神様からの授かり物だという言葉にも、驚きを隠すことができませんでしたね」。
それでも欲しかったら?と諒子さんが聞くと母はこう答えたという。
「できなかったら、それでもいいじゃないと。自分は子供のいる人生を送っているのに、いなくてもいいと言われると私はいらなかったのかなと悲しい気持ちになってしまいました」。
【後編】では、卵子凍結に反対なのは母だけでなかった事実に気がついた諒子さんを追っていく。
取材・文/悠木 律