実は、加奈子さんは結婚の約束をした男性を交通事故で亡くしている。
しかし、10年近く経った今も彼を忘れることができず、何度見合いや紹介を勧められてもその気にならないという。
「母はまだ66歳と若いのですが、持病があるので仕事はすでに退職。家事もできる限り負担がかからないよう、7割くらいは私がやっています。
父は母より一回り年上ですでに78歳。週に1度通院しているほか、デイサービスにも通っており、あとは自宅にいます。
手すりを持てばお手洗いなどもまだ1人で行けるものの、入浴や着替えには介助が必要な時もあります」
加奈子さんは自治体の職員として働いている。今の所属は残業が少なく家事も難なくこなせているが、去年までは残業が多く、帰宅すると両親がお腹を空かせて待っていることもあった。
「『高齢者向けの栄養食を冷凍で買ってあるから、お腹が空いたら食べて』と言っているのですが、『解凍の加減がわからない』と言っていつも面倒臭がるんです。
私の帰りを首を長くして待っている様子は、もはや小さな子供ですね」
一日中立ち働いて疲労困憊でも、親が口を開けて待っていれば、すぐにエプロンを着けて夕食の支度をしなければならない。
しかも高齢の親の食事には気も遣う。野菜を多めに、食材は小さく切って、味付けは薄めに……などなど。
「両親はすっかり私に頼りきりで、私だけが頼みの綱なんだなと実感します。ですがその度、頑張らなきゃという気持ちよりも、怖さや不安が勝ってしまいます」
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老親のために電動ベッドを購入したときも自分の蓄えから出し、家電が壊れた時や家の外壁修理を行った時も加奈子さんが費用を負担した。
「親も少しは出してくれましたが、年金はともかく、両親の蓄えをあてにしてはいけませんから。
2人はもう仕事をしていませんが、家の固定資産税や毎月の食費や光熱費などの出費は変わらずあるので、臨時の出費は概ね私持ちです」
親の貯蓄にはなるべく手をつけるな、と姉からプレッシャーをかけられているという事実もあるそうだ。
「姉は、『実家暮らしだからといって勝手に親の財産に手をつけるのはダメだ』と言っています。
姉はすでに自分の家と家庭があるわけです。実家に必要な費用を親に出してもらうことの何がいけないのか、私にはわかりません」
両親を経済的にも支え続ける加奈子さんと、加奈子さんが結婚しないと決めつけて実家や親のことを全て押し付ける姉……。次回、そんな加奈子さんの心を粉々に砕く一言が、母の口から告げられる。
取材/文 中小林亜紀