「お客様が複数のセラピストを呼べることは知っていましたが、僕はまだ未経験で……。しかも、もう1人の男性は常にトップ3に入る人気セラピストのアキラさん(仮名・26歳)だったんです」
タダシさんは、女性客を中心に「3人で楽しむプレイ」だと想定し、緊張感に包まれたという。
「まず思ったのは、『アキラさんの足を引っ張らないように、お客様に満足してもらわなくては』と言うことです。研修期間は、男性講師がついて3人での実技研修もありますが、プロになってからは初めてで……」
真面目なタダシさんは、店側を通して「アキラさんに連絡を取ることは可能ですか? ご挨拶と段取りなども相談したいので」と訊いたそうだ。
タダシさんは続ける。
「許可をもらってアキラさんにLINEすると、『段取りは不要だよ。当日、お客様のリクエストを聞いてから施術をしよう』と言うことになりました。さすがトップ3だけあって、堂々としていましたが、僕は心配で心配で……」
不安な夜を過ごし、当日になった。
「指定されたホテルの部屋にアキラさんと一緒に向かいました。店によっては事前にSNSでお客様と連絡を取ることを許可している場合もありますが、僕の店『E』はお客様と直接連絡を取ることは禁じられています」
今回、タダシさんら2人にリクエストされたのは、
・2人ともスーツ姿で来ること。
・タダシさんはメガネをかけてくること。
の2項目。
「スーツ男子やメガネ男子を好むお客様は意外と多くて、僕も数回スーツ着用で行ったことはありましたが、メガネのリクエストは初めてでしたね。
当日初めて会ったアキラさんは、長身で甘いマスクの美青年。HPの写真よりも数倍カッコよかったです。のんびりとした風貌の僕とは大違い。ちなみに、僕もHPに顔を出しています。指名を取るには顔出しのほうが有利と聞いたので。
アキラさんに『今日はよろしくお願いします』と挨拶をして、指定された部屋のチャイムを押しました」
ドアが開き、姿を現したのは、20代と思しきロングヘアの女性だった。その美貌にタダシさんは面食らったという。
「モデル並みに美しい女性だったので、正直驚きました。お客様は笑顔で僕らを招き入れると、
『初めまして、リリコ(仮名)と言います』
スレンダーな体にフィットしたワンピース姿で、一礼しました。僕らも挨拶し、手洗いとうがいをさせてもらってから、カウンセリングノートにプレイの希望をメモしようと、ソファーに腰をおろしたんです。すると、リリコさんは驚きの言葉を発しました。
『実は私、BLファンの腐女子なんです。今日はこれを2人にやってほしくて』」
差し出されたのは一冊のコミックだった。BLで人気を博すその作品は、『長身の美青年がメガネ男子に恋をし、ラストで2人は結ばれる』というものだ。キスシーンもあれば、抱擁シーン、それ以上の過激な場面もある。
「僕が呆気に取られていると、リリコさんは笑みを深め、『私はソファーで鑑賞しているから、よろしくお願いします』と告げました。」
「ボーイズラブ……? 3人プレイじゃないのか……?」と、予想外のリクエストに、タダシさんは凍り付いた。
美女からの予想外のリクエストに戸惑うタダシさん。後編ではその過激な「BLシーン再現」要求と、タダシさんの奮闘を詳細にレポートする。
TEXT:蒼井凜花