探偵が主人公となるドラマや映画は多いが、実際「探偵」とはどのような仕事なのだろう。日系のCAから作家に転身し、興味の向くまま森羅万象を取材している筆者が今回テーマに選んだのは、ズバリ「探偵」という仕事だ。
スーパーの店員から探偵となった鶴岡ミサキさん(仮名・38歳)に驚きの裏側を聞いてみた。
「探偵の仕事を始めたのは、夫が地方に単身赴任になったのがきっかけです。それまではスーパーのパートで平凡な主婦。子供もいないし、ドラマティックな仕事をしたくて、思い切って探偵事務所の面接に行ったんです。
受かったのは三社目の『Z探偵事務所』という、中規模事務所でした。探偵になるための専門学校もあるようですが、Z探偵事務所のA社長(推定50歳)は私に対し『堂々として、媚びない人柄が気に入った』と即合格をくれたんです」
探偵の仕事は主に浮気調査、不倫相手や片思い中の相手の動向調査が多いらしい。
A社長の意向なのか、探偵同士の接触はほとんどなく、指示もLINE経由が多かった。テレビではおなじみの「依頼人との相談風景」もゼロ。
つまり、A社長のみが依頼人と会い、必要事項に関してLINEで探偵たちに指示しているようだ。
「私の任務は、対象者の尾行と動画撮影から始まりました。細工したバッグに仕込んだカメラやスマホで写真や動画を撮影。『対象者が何時何分に自宅を出て、〇〇駅から電車に乗り、△△駅で下車』など、事細かに報告するんです。電車だけではなく、尾行は車でもするので、運転もかなり上手になりました。
服装は目立たないダークな色の服にスニーカー。バッグの中身は盗撮用のカメラが二台と充電器、スマホ、ICレコーダー、変装用のメガネなどでしょうか。カメラをマンションの玄関付近に張り付けることもあるため、外壁に合わせた様々な色のマスキングテープも揃えました」
ミサキさんは、持ち前の度胸と行動力で、日々の任務をこなしていった。尾行、隠し撮り、待ち伏せ、対象者への接近。その間も、探偵同士や依頼人との接触はない。
―ミサキさんは、ターゲットの男性と親しくなることも可能かな?
ある日、A社長からこんなLINEが送られてきた時、ミサキさんはすぐに「壊し屋だ」と直感したという。不倫からの略奪婚、もしくは離婚を有利に持っていくため、あえて「対象者と寝る」任務があるとも聞いていたからだ。
最初こそ戸惑ったミサキさんだが、熟考したうえで承諾した。
実はミサキさん、20代の一時期、風俗業界で働いていたことがあるという。風俗嬢だった過去が、「男性と親しくなること」のハードルを下げていたのかもしれない。
「対象者は、品川のデザイン会社に勤める、妻子持ちのジュンさん(仮名・45歳)でした。A社長からは『すでに別の工作員が彼とマッチングアプリのチャットルームで親密になっている。ここからミサキさんにバトンタッチをするから、男女の関係になってほしい』と告げられたんです」