「夫はマザコンです。そして義母もめちゃくちゃ息子大好き。結婚する前までは仲のいい家族で羨ましいと思っていましたが、娘が生まれてからウンザリです」
不満そうに語ってくれたのは、小川美香さん(35歳・仮名)だ。
夫と交際5年を経て入籍したあと娘を妊娠・出産して現在は3人家族で暮らしている。
結婚する前までは母親想いで家族が仲よく羨ましいと思っていたようだが、子どもが生まれてから夫のマザコン具合に頭を悩ませている様子だ。
危機コンサルタントの平塚俊樹氏は言う。
「マザコンと母親思いは似て異なります。マザコン夫の特徴は母親のいいなりになったり、頻繁に実家や母親に顔を出して連絡を取ったり、妻よりも母親の言葉や行動を優先したりなどさまざま。
その一方、自分の母親だけでなく妻や妻の母親にも優しい人も存在します。母親を思いやる気持ちは素晴らしいですが、度が過ぎると夫婦間のトラブルになりかねません」
今回はマザコンすぎる夫と、息子を溺愛する姑の間で悩む主婦の苦悩についてリポートしていきたい。
美香さんと夫はもともと九州出身だが、現在は仕事の兼ね合いで東海地方で暮らしている。
交際当時から義家族との付き合いはあり、帰省するたび義実家へ顔を出して親戚・甥っ子や姪っ子たちと交流し楽しい時間を過ごしていた。
義家族はとにかく仲がよかった。夫は一週間に2〜3回、母親とテレビ通話をして仕事で合った出来事や面白かったテレビの話、昔話に花を咲かせている。
とくに美香さんが会話に加わることはなく、基本的に夫と義母のみで楽しんでいたらしい。
「もともと夫が義両親へ対する態度や言動には違和感がありました。結納や結婚式の日程も『親は自営業だからこの日がいいらしい』と言われすべて義両親が希望する日。
当時はそこまで気にしていなかったんですが、入籍したあとから疑問を抱くようになりましたね。
義家族との行事の場合、私のスケジュールは無視し、義両親が自宅に一週間泊まりに来たのも驚きでした。当時はフルタイムで働いていたので慌てて大掃除をして買い物へ向かいましたよ」
当時の美香さんはフルタイムの医療事務で働いており、仕事をしている間、自宅に義両親がいると思うと気持ちが落ち着かなかったようだ。
冷蔵庫の中身をチェックされていないか、掃除が甘いと思われているのではないか、息子にちゃんとした料理を作っているか検証されていないか不安になり、モヤモヤした一週間を過ごしていたよう。
「仕事から帰ると3人でビールを飲み、18時から宴会を始めていました。義家族は全員酒飲みなので、夕飯を食べながらみんなで食事をするのが日常のようです。
というか、週2~3回ビデオ通話するのによく話すことあるよな......って感じですよね。そのときやっとわかったのが夫がマザコンということ。
母さんの唐揚げが世界一美味しい、将来同居したいねなど、横で話を聞いているだけでゾッとしました(笑)」
その後、義両親は故郷へ帰りいつも通りの日々を過ごしていた。
今回の件で疲れてきっていた美香さんは、職場で仲のいい先輩に夫と義両親について相談するも意外な返事が返ってきたようだ
「じゃあ、今度押しかけて来たら私と飲みにいこうよ!夫のお世話はママに任せたらいいじゃん!たぶん姑は美香ちゃんに興味なさそうだし、外に出たらいいんだよ!」
明るい先輩のアドバイスに心が救われた。実際、夫のマザコン以外に嫌と感じるところはなく、基本的に優しく穏やかな性格のよう。
次に義両親が訪ねてきたときは気負いすぎず、自身がストレスを溜めない程度に対応すると心に誓っていた。
そして義両親の訪問から一か月が経った頃、平日の真っ昼間に義母から5件の着信が入る。
「美香さん!息子くん昨日から出張よね!?電話しても取らないから心配になって......。事故とか、ほら......。急にお腹が痛くなって病院とか言ってるのかしら…...。何か連絡きてない?」
「朝にLINE入っていましたし、大丈夫ですよ。昨日は夜遅くまで接待と言ってたので、疲れてたんだと思います」
普段連続して着信が入ることはないので、何事かと思い慌てて折り返すとそのような内容で呆れ返ったようだ。
「夫のマザコンは治らないので『お義母さんからめっちゃ連絡来たよ。もういい歳なんだから、親に心配かけないようにしないと』とLINEを送っておきました。出張先でもテレビ通話していたんですかね......。」
マザコン夫と子離れしていない義母について悩んでいたが、美香さん本人は義母から意地悪をされるわけではなかった。
義家族の行事や義両親が関わると夫の優先順位が義実家になること以外を除けば、性格は穏やかで優しく仕事に真面目。マザコンだけ目をつぶれば夫婦関係は良好でいられる、きっと子どもができたら変わるだろうと淡い期待を寄せていた。
しかし待望の第一子である娘を出産すると、ますます夫と姑の仲に対して嫌悪感を抱くようになっていったと話す。
「生後2週間で義両親がまたアパートへ泊まりにきたんです......。産後でボロボロなのに来るなって言えと伝えると『もう飛行機取ったらしいから』『この日程じゃないと母さんたちの仕事の都合が悪いらしい』と言う始末。
チケット取られる前に言えよって感じでした。しかも義母だけならまだしも、義父も来ると言い出して......。授乳するとき気を遣うし、私は外出できないしずっと家にいられるのはストレスを感じそうだと思った予感は的中しました」
・・・・・・・
ピンポーン。
当日、九州のお土産と近くのドラッグストアで買ったであろう紙おむつとお尻ふき、缶ビールのケースを持参して義両親が訪ねてきた。
「美香さん出産お疲れ様~~!きゃー!息子くんにそっくり!目と鼻がそっくり!」
娘の誕生はとても嬉しかったようで、自宅へ到着するなりずっと抱っこしたりミルクをあげたりしてくれたようだ。
「あ、そうそう!家を整理してたら、息子くんの小さいときのアルバムが出てきたの〜!ほら、可愛いでしょう?」
義母が手荷物から取り出したのは、年季の入ったアルバム3冊。すると義両親、夫の3人で幼少期のアルバム鑑賞会が始まったのだ。
「アルバム鑑賞会をするために来たの?帰省したときでもよくない……?」
心のなかでそう思いながら、隣の部屋で生後2週間の娘を授乳しながらため息をつく美香さんであった。
後半では、マザコン夫と息子大好き義母をもつ主婦が悩んだ末にとった振る舞いについて詳しくリポートしたい。
取材/文 錦城 和佳