「パートナーから裏切られるかもしれない」「相手を失うかもしれない」などの恐怖心から、根拠のない嫉妬妄想が抑えられなくなる症状のことを「オセロ症候群」という。名前の由来は、主人公が妻への激しい嫉妬にかられる、シェイクスピアの四大悲劇の一つ「オセロー」からきているそうだ。近年、痛ましいニュースにもなっている、精神疾患のひとつだ。
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弊社に浮気調査を依頼してくる人物の中には、すでに複数の探偵社を経てもなお、浮気の証拠が掴めず、妻や夫への疑念に囚われ続けたまま辿り着く者がいる。
「牧内智和」(仮名)も、その1人だった。牧内氏は、前年の4月に、長年勤めた税理士事務所を定年退職したばかりの66歳。現在は、ほとんどを自宅で過ごすという。
牧内氏の妻は、当時56歳の専業主婦。一人娘が5年前に結婚して家を出てからは、犬を飼い、10歳年の離れた夫婦なりに、2人で円満に生活していたはずだった。
2年前、牧内氏は居住しているマンションの理事を務めることになった。当時はまだ、牧内氏は退職前だったため、妻が代理で理事会に出席するようになったが、それが疑惑へのきっかけになってしまった。
「ある時に、見てしまったんですよ。妻が、隣の部屋に住む男性と、親しそうに話しているところを」
聞けば、その60代の隣人男性もマンション理事の1人だという
「お互いに理事同士ということですよね?しかも、部屋だって隣同士ですから、会えば挨拶や立ち話くらいすることもあるのでは?」
そう尋ねると、牧内氏は
「いいえ、あの雰囲気は尋常ではありません!それに同じ頃、妻の下着が新しく買い替えられていたんです!わかりやすい浮気のサインですよね?」
と、確信するように言った。
「その頃、奥様が度々、誰かと通話やLINE、メール等のやり取りしている様子があったとかは……?」
そう尋ねると、牧内氏はきっぱりとこういった。
「私の前では、一切ないです。別の方法を密かに用いていたのだと思います」
「別の方法……ン……なるほど……(手紙とか?かな)」
「奥様は、頻繁に外出されていますか?」
「いえ、犬に散歩と買い物くらいです。かなり慎重になっているのでしょう」
「以前より、外出が減ったと?」
「以前から、妻はあまり出歩くタイプではないので」
「……」
更に、その後の聞き取りで、牧内氏が妻の浮気調査を依頼するのは弊社が最初ではないことが判明した。
この1年余りの間に、牧内氏が依頼した探偵社は弊社で4カ所目だという。
「最初の探偵社は、半年間で200万円という契約で、先方がランダムに選んだ5日間に妻の調査をしてもらいましたが、成果が全くありませんでした。
次の探偵社は、2か月間の間に3回実施して100万円かかったのにダメで、今度は、私の方で調査する日を指定して、フリーの探偵に調査してもらいましたが、それもダメでした」
正直に言うと、今までに300万円以上費やして、浮気の事実が出なかったにもかかわらず、まだ尚、妻を疑い続けていることに驚きを隠せなかった。
そこで、我々は牧内氏にこう尋ねてみた。
「今もまだ、奥様の浮気を疑い続ける理由が、何かおありですか?」
☆次回では、「オセロ症候群」の被害妄想に陥ってしまった夫の衝撃的な空回りと、妄言をさらに詳しくレポートする。反面教師として読み進めてほしい☆
Text: 探偵こころたまき