それは安美の家のドライヤーにまつわる話だ。
「実際、このドライヤーがリコールじゃない方がおかしいと思いますね。口コミとか見ていても、同じような事例が数多く出てくるので」
昨年、10年ぶりに買い替えたドライヤーが問題の商品だ。価格は1万円程度。見た目がおしゃれなことから、インテリアを邪魔しないと人気を集めている商品だという。
「それまでは大手メーカーのものを使っていたんですが、なんとなく風力が弱くなってきた気がして、買い換えることにしたんです。すごく高いダイソンのものとか、イオンドライヤーとか、そういうのも考えたんですが、見た目があんまり好きじゃなくて。もう少し、シンプルで無機質なものはないかな? と探しているときに出会ったんです」
そのドライヤーはマットな質感の黒で確かに、見た目にはとてもおしゃれな雰囲気。安美の家の洗面所はインテリアを黒に統一している。確かにそれにもしっくりとくるデザインだ。
「ジャケ買い感は否めませんが、機能もそこそこよかったんですよ。風量もまあまああるし、重すぎず、使いやすい感じで。特別すごい艶が出るとかはないですけど、価格も併せて、家庭で使うのにぴったりだなって」
こんなふうに当初は、満足してそのドライヤーを使っていたそうだ。それが半年くらい経ったころ、気になる変化があったという。
「ノズルっていうのかな? 本体と外すことのできる部分があるんですけど、そこがよく外れるようになったんです。おかしいなと思ってよくよく見てみると本体との接続部分がところどころ、溶けていることに気がついたんです」
接合部分が溶けたことで、ゆるみが出てきちんとはまらなくなってしまったらしい。
「騙し騙し使っていたんですが、どんどん外れる頻度が高くなってしまって。しまいには使うたび、外れるようになってしまったので、しかたなく接合部分をマステでシールしました。見た目がおしゃれで買ったのに……。すごい残念でしたけど、壊れたわけでもないし、何よりたいして使ってもいなかったんで、捨てるわけにもいかなくて」
故障と言えば故障だが、使えないことはないため、使い続けてしまう……。家電や生活雑貨には、よくある話にも思える。皆さんのご家庭にもこんなふうに使い続けているものがあるかもしれない。しかし、遠藤家のドライヤーは部品が溶けているのである。
「確かに、今考えればあのとき、使うのをやめるとか、メーカーに連絡するとかすればよかったんですよね。でも何かと忙しくて、結局はマステを貼り替えながら使ってしまったんです」
問題が起こったのは購入して1年が経った頃。
「夜、髪の毛を乾かしていたら、急にパンって音がしたんです」
銃声と紛うような轟音と、火花。何が起きたのか理解する間もなく、鼻腔を煙が襲ったと言う。
取材/文 悠木律