「その口座からは有料老人ホームの入居費、馬券だけでなく、ハツネとともにする食費も支払っていました。食費は男が払うのが当たり前だと思っていたので、私が一括して支払っていたんです。使っていたのは、娘が一緒に作ってくれたデビットカード。口座から直接引き落とされるカードだったのに、残高を気にしたことはありませんでした。知らず知らずの間に1000万円という大金をを使い切ってしまったことが情けなくて、情けなくてとても落ち込みました。そしてこのままの生活はできないとも思いました。でも同時に競馬ができなくなることもハツネといられなくなることも考えられなかったんです」
その時点で康の手元に残っていた現金はおよそ2500万円。退職金である。
「その金に手をつけるか否か……迷いに迷いました。普通の感覚であれば、つけませんよね。でも当時は、もう訳がわからなくなっていたんだと思います。あと100万円だけと決めてハツネにも、競馬をやめると伝えようとしました。でも馬券を買わないと不安だったし、ハツネにお金がない姿を見せるのもカッコ悪くて、結局あと100万、あと100万とお金を使い続けてしまったんです。これってきっとギャンブル中毒ですよね……」
馬券を買わずにはいられない一方で、手元のお金が1日、また1日と減っていく不安に康は押しつぶされそうになっていた。その頃の康はいつもイライラとしていて、人への態度も横柄になり、人格が変わったようだった。しかし、ハツネは毎日馬券を買え買えと迫ってくる。
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