おそらく、普通の人ならばこの時点でギブアップし、限界だろう。しかし、Aさんは「このまま山本の騒音に負けてたまるか」とさらに意固地になる。
ここはロケーションや立地も良いし、簡単に引っ越しをしたくない。しかも、引っ越しをしてまだ3ヶ月も経過していないのだ。
引っ越しするとなれば、当然引っ越し代金もかかるし、何しろ各種手続きが面倒。住所変更の届けをいろいろなところにしなければならない。
神経がすり減るような毎日を送っていた矢先、一本の電話がAさんの元にかかってきた。この部屋にAさんを紹介した不動産会社だった。
「私が立てた音に対して、隣の住人から苦情が入ったと言うんです。一瞬、頭に血が昇って、『私は無実だ』と抗議しに行こうと思ったのですが、不動産業者から必死でなだめられ、格安の条件で新しい引っ越し先を提案されたんです。きっと、彼らも山本の件を私に告げずに入居させた引け目があるんでしょう。今は諸条件を交渉中ですが、このままマンションから退去するのは、あいつに負けたようで我慢ならない。いま山本と鉢合わせしたら、自分が何をするかわかりません」
Aさんはそう言って、口をきつく結んだ。隣人トラブルは、ときに一般市民の思わぬ「牙」を露わにしてしまうのかもしれない。
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