結局、瞳は家族には内緒で卓球教室をやめた。そしてその時間にタカシの家へこっそり通うようになった。まるで若い2人のように求め合う日々は、瞳の当たり前の人生をなきものにした。
「おしゃれな洋服も着たいし、脱毛とかエステにも通いたいと思い、一念発起して仕事を始めることにしました。だって彼に綺麗と思われたいから。夫にそんなこと思ったことは一度もなかったのに、不思議ですよね」
タカシと関係を続けるなかで気がついたことがあるという。
「夫は私が仕事を始めたいと言ったときも、家事をやってくれるなら、なんでもどうぞという感じでした。不倫をしているなんてきっと思ってもみないと思う。というか私に興味がないんです。彼が欲しいものは、親が望む家族というカタチ。彼もまた私と同じように親の選んだ道を忠実に歩んできたんですよね。もしかしたら、どこかで欲求不満を解消しているのかな?」
悪戯っぽく瞳は微笑んだ。
「親の決めた人生を歩いてきたけれど、その人生から外れてはじめて本当の自分を知った気がします。タカシと結婚したいという気持ちはないけれど、ゆくゆくは夫と離婚したい。子どもには申し訳ないけれど、自立したいんです。今はそのための準備をしています」
夫の側から考えれば、末恐ろしい話である。不倫ののち、離婚を突きつけられるのだから。しかし、誰もが自分の人生を生きる権利がある。親として、夫として、人として、誰かに人生を押し付けてはいないだろうか? そう、思わず考え込んでしまう。
Text:FORZA STYLE
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