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類い希なる才能と発想を持ち、次々と複雑機構の革新的な時計を世に送り出している、稀代の時計師、フランク ミュラー。
彼はいったいどのような人物なのか、そして彼の生み出した時計がかくも愛される理由は? フランク ミュラーという人物と彼の生み出す腕時計の世界を探究するために、編集長の干場と対談いただいたのは、ご存じ山田五郎氏。
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広範な知識を基に編集者、評論家、コラムニスト、YouTuberとして活躍されていることは言わずもがな。さらに2021年に上梓された『機械式時計大全』(講談社)は、腕時計愛好家たちの間でバイブルとして必携の書となっている。
実はフランク ミュラーと同い年という山田五郎氏が語る唯一無二のフランク ミュラーの魅力とは? 詳しくは動画でじっくりとご堪能いただこう。こちらの記事では、動画内で紹介している腕時計を1品ずつ詳しく紹介しながら、改めてフランク ミュラーの世界観を紐解いていく。
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フランク ミュラーのトゥールビヨン4品。右上から時計まわりに、「ヴァンガード グラビティ」「エテルニタス 5」「レボリューション 3」「ギガ トゥールビヨン スケルトン」。
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フランク ミュラーの真髄「トゥールビヨン」
1986年、腕時計に「トゥールビヨン」という機構を世界で初めて採用したのは、他でもないフランク ミュラーだ。それまでトゥールビヨンは懐中時計のためのものであった。しかしフランク ミュラーは腕時計にジャンピングアワー式のトゥールビヨンを搭載した。しかも一般的なトゥールビヨンではなく、「自由振動」というオリジナルコンセプトのものだったという。
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さらに、本来外から見せる必要のない補正機構トゥールビヨンを「あえて」見せることが腕時計の新たな魅力に繋がると、文字盤側からトゥールビヨンを“見える”ようにしたのもフランク ミュラーが最初なのだ。
山田氏は「トゥールビヨンをエンターテイメントにしたことが、フランク ミュラーの最初の大きな功績だと思う」と語る。
トゥールビヨンはやがて時計師フランク ミュラーとブランドの代名詞になり、現在に至るまで各コレクションのさまざまな腕時計に採り入れられている。
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「ヴァンガード グラビティ」
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力強く迫力のあるインデックス、スポーティさがありながらも優雅な質感でアバンギャルドな印象の「ヴァンガード グラビティ」。「最近はラグジュアリースポーツと呼ばれるこのタイプが人気ですよね。俺は“時計のSUV”と呼んでいます」と山田氏。
重力に縛られない理想の時空間を追求した「ヴァンガード グラビティ」は精度とビジュアルの両面でトゥールビヨンの究極形を目指しながらも、古き時代に思いを馳せた流麗なフォルムを強調している。小さく集約された時間表示と宙に浮いたように回転するオフセット トゥールビヨンを組み合わせ、腕時計の“曲線美”に“コンプリケーション”を融合するという、フランク ミュラーならではの「合理美学」を強く感じさせる腕時計だ。
「エテルニタス 5」
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※動画内では黒の文字盤のものをご紹介しています。
ラテン語で「永久」という意味を持つ腕時計。その名の通り、使用を続ける限り永遠に止まることなく動き続ける自動巻き機構から由来している。約8日間のパワーリザーブの自動巻きトゥールビヨンを基本とし、トゥールビヨン、スプリットセコンドクロノグラフ、均時差、第二・第三時刻表示、さらに1000年にわたり無修正のまま使用できるエターナルカレンダーを搭載。このエターナルカレンダーは2100年、2200年など、西暦2000年代に7回だけある「閏年ではない」00年をも示すことができ、手動で表示を調整する必要がないという、まさに「永久に時を刻む」グランドコンプリケーションとなっている。
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山田:「これはすごい! トゥールビヨンとスプリットセコンドクロノグラフとエターナルカレンダーに加え、三時間帯と均時差表示までついている。全て動かすにはかなりのエネルギーが必要なはずですが、それをマイクロローターの自動巻きでまかなえている点も驚異的です。設計と加工精度がよほど優れていないと、こうはいきませんよ。フランク ミュラーが“マスター オブ コンプリケーション”と呼ばれるゆえんですね」
「レボリューション 3」
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トリ・アクシャル:3重軸式の「レボリューション 3」は2004年に登場。そもそもトゥールビヨンは、地球に重力が存在する限り、その影響下で時計を着ける人の姿勢によって生じる精度の誤差を減少させるためのものだが、この誤差を極限まで減少させるために考案されたのが3重軸式だ。この仕組みのおかげで腕時計は地球の重力から開放されたという、時計芸術の素晴らしさと奥深さを世に知らしめた逸品。
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山田:「機械式時計の精度を司るテンプという部品は、縦方向に置いたときにどちらが上になるかで重力の影響に違いが出て“縦姿勢差”と呼ばれる誤差を生みます。ベストのポケットに同じ向きで収まっている懐中時計は、“縦姿勢差”が蓄積しやすい。だからテンプ全体を常に回転させて“縦姿勢差”を帳消しにするトゥールビヨンという補正機構が生まれたわけです。でも、腕時計は腕の動きに合わせて縦だけじゃなくいろんな方向を向きますよね。ならばトゥールビヨンも3次元の全方向に回転させなければということで、3重軸にしたわけです。これなら腕がどの方向に動いても精度が保てます」
干場:「じゃあ宇宙に行っても大丈夫ですね」
山田:「いや、宇宙は重力がないから、そもそもトゥールビヨンの意味がないよ(笑)」
「ギガ トゥールビヨン スケルトン」
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その名称に象徴されるように、時計の約半分の空間を占める直径20㎜の大型トゥールビヨンが目を引く「ギガ トゥールビヨン スケルトン」。従来のトゥールビヨンなら1個あるいは2個にとどまる香箱を4個も備えることで、約216時間持続するロング・パワーリザーブを実現。スケルトン・バージョンのモデルは高度な技術で作り上げられたメカニズムを隅々まで見渡すことができ、完璧な美の世界を堪能できる。
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干場:「大きいのはいいんですか? 小さいほうが高そうな気がしますが……」
山田:「いや、機械式時計のテンプは大きくて重いほうが精度は安定するんですよ。ただ、その分、エネルギーを食う。だからこの時計もゼンマイを収納する香箱が2段積みで2つ並んでます。ゼンマイを4つ積むことで、大口径テンプでロング・パワーリザーブという難題を見事に解決したわけです」
ここまでトゥールビヨンの数々をご覧いただいたが、フランク ミュラーの魅力はもちろんそれだけではない。山田氏は語る。「フランク ミュラーがコンプリケーションの名手であることは言うまでもないけれど、彼の本当のすごさは複雑な機能をシンプルな機構で実現してみせるとことにあるんじゃないかと思うんですよ」
その発言の真意は? いくつもの特許を有するフランク ミュラーならではの、他に類を見ない“芸術品”とも言える腕時計の魅力を改めて確認していこう。
山田五郎氏が絶賛する「マスターバンカー」
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山田:「機械って、見た目が複雑なほうがすごいと思われがちですが、実は機能が同じなら機構はシンプルなほうがすごいんですよ。シンプルなほうがエネルギーをくわないし操作も簡単、故障も少なく修理もしやすいですからね。だから複雑な機能をシンプルな機構で実現するのがいちばんすごいし、難しい。フランクは、それをさりげなくやってのけるんですよ。このマスターバンカーがいい例ですね」
マスターバンカーは銀行家の友人の「世界の金融市場の時間を一つの時計で見たい」という希望を機械式で叶えるために1996年に作られた名機であり、1個の自動巻きムーブメントで3つの異なる時刻表示を可能にした。特筆すべきは、リュウズが1個しかないという点。通常、6本の時分針と秒針があれば、操作のためのボタンが増えるはずだ。しかしフランク ミュラーはそれをひとつのリュウズで実現させているうえ、3つの時計はそれぞれ分針まで動かせる。一見シンプルな表情のなかに超絶技巧が隠されているのだ。
山田:「ぱっと見ではわからなくても、使ってみればすごさがわかる。俺はフランクの本当のすごさは、こういう奥ゆかしさにあると思うんですよ。しかもゴールドでこのお値段、めっちゃお買い得だよね。俺も話しながら欲しくなっちゃってるもん(笑)」
クレイジー アワーズ
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時計誕生以来の常識を覆し、前代未聞の時刻表示を備えた「クレイジー アワーズ」は2003年に発表。
1時59分から2時に移り変わる瞬間に、短針が1から通常の6時位置にある「2」へとジャンプし、2時台は短針はずっと同じ位置のまま。3時になる瞬間に、通常の11時位置にある「3」へとジャンプする。その動きは、時計が自由気ままに時刻を示しているかのようにも見える。
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干場が今回の動画で着けていたのは、このクレイジー アワーズのデザイン違い。黒の文字盤にインデックスは白、クロコダイルストラップのものだ。
フランク ミュラー氏はかつて、インタビューの中でこう語っている。「人間は無意識のうちに、時に追われて仕事をしていたり、人生を過ごしたりしてしまう。時に縛られてしまっている。なぜかというと時計の表示は上の中央が12時、下の中央が6時と位置が決まっています。そのため実際に文字盤を見ることがなくても、その位置が脳にインプットされ、固定観念になっている。そこで、各数字を一般的な時計とは全然違う場所に配置し、頭に刷り込まれているものとは違う表示になるようにしたのです。人生はあらかじめ決められたものではなく、自分の好きなことができる。人生を決めるのは自分自身だということを時計を通じて表現したかった」
時計はかくあるべき、時間はこういうものだ、という概念を軽々と飛び越え、まったく新しい発想で革新的な時計を生み出す。それこそがフランク ミュラーの最大の才能なのかもしれない。
山田:「クレイジー アワーズの魅力のひとつは、指針がジャンプする瞬間の気持ちよさでしょう。どんな分野にも一流品でなければ味わえない感触というものがありますが、まさにそれ。設計や加工精度のよさは、こういうところに表れるんですよ」
干場好みの1本「ヴェガス」
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この対談を始める前、干場が「フランク ミュラーでいちばん好きな時計」として挙げたのが、この「ヴェガス」だ。
山田:「また飲み屋でモテようと思ってるでしょ?『黒が出たらデートしよう』とか、そういう使い方を考えて(笑)」
干場:「いやいや、単純にくるくる回って面白いかなって(笑)」
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正確な時を刻む時計と、結果の予測が不可能なルーレットという、相反する二つの要素を組み合わせ、「時を知る」という役割から腕時計を解放した革新的な腕時計「ヴェガス」は1999年に発表された。リュウズと同軸に埋め込まれたプッシュボタンを押すとルーレット針が回転し、プッシュボタンから手を離した瞬間に止まる。その世界初で唯一の機構もフランク ミュラーの特許だ。
この時計の中には「時間は常に一定で動いているもの」という必然と「動いて止まる」=偶然、二つの相反する概念が共存している。正反対のものを一つの時計の中に入れてしまったという、哲学的な面白さを有しているという意味でも興味深い。
「シークレット アワーズ」
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シークレット アワーズの時分針はいつも12時位置を指しており、秒針のみが動いている。正しい時刻を表示するのは、9時位置にあるプッシュボタンを押したときのみ。まさに「時の束縛から解放され、時間を忘れるための腕時計」として、2006年に誕生した。
山田:「これもヴェガスと並ぶモテ時計だよね。その場で実演してすごさを見せつけることができるし、遊びゴコロがある」
干場:「でもその遊びゴコロの背景には、ものすごい技術力があって、それをそぎ落としたり、極限までシンプルにしたりしている。それも凄いですよね」
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以上、フランク ミュラーの世界観と美術品とも評される腕時計の数々を紹介してきたが、いかがだっただろうか? 最後に山田氏の以下の言葉をもって、この記事を締めくくるとしよう。
「スマホ1台あれば正確な時刻がわかる時代に、あえて高いお金を払って腕時計を買う意味は、人生が楽しくなることにあるのではないでしょうか。腕時計はもはや人を時間に縛りつける手錠ではなく、逆に時間から解放してくれるツールなんですよ。たとえばクレイジー アワーズをつけていれば、毎時55分を過ぎたあたりから『そろそろ時針が飛ぶぞ』とワクワクしてきます。ヴェガスのルーレットを回したり、レボリューション 3の3重軸トゥールビヨンを眺めたりしていれば、時が経つのを忘れるでしょう。フランク ミュラーは、まさに人生を楽しくしてくれる腕時計だと思います」
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Movie : Shingo Takeda
Ptotos : Ikuo Kubota(OWL)
Styling:Hiroki Tsuchiya
Text : Yukari Tachihara
【提供元】
フランク ミュラー ウォッチランド東京
03−3549−1949