78歳で今なお現役。フィレンツェの巨匠が創る極上スーツ
人生には、どうしても手放せなかった服、そう「捨てなかった服」があります。そんな服にこそ、真の価値を見出せるのではないでしょうか。この連載では、本当に良い服、永く愛用できる服とは何かについての、僕なりの考えをお伝えしていきます。そして同時に、皆さんがワードローブを充実させ、各々のスタイルを構築するうえで、少しでもお役に立つことができれば嬉しい限りです。
さて、この連載では過去4回でスーツ、シャツ、ネクタイ、靴を紹介してきました。クラシックスーツの、僕自身のコーディネイトにも触れてきましたが、写真が少なく、分かりにくかったかもしれません。その辺りについて過去の雑誌の記事で紹介したものを、Facebookにアップしています。今回紹介するスーツを着た写真もあります。アカウントをお持ちで、興味のある方はこちらからご覧ください。

「クラシックスーツ=古臭いスーツ」ではありません。誤解なさいませんように。ということで、今回もクラシックスーツの素晴らしさについてお話します。イタリア、フィレンツェでオーダーした、「リヴェラーノ&リヴェラーノ」のスーツです。トルソーとサイズが合っていないせいか2ボタンにも見えますが、3ボタン中1つ掛けで、本来はVゾーンはもっと狭くなります。
オーダーしたのは1998年10月1日。前回紹介した「ステファノ・ベーメル」の靴をオーダーした2日前、雑誌『BRUTUS』の取材で伺った日でした。その時、僕自身はオーダーするつもりはまったく無かったんですが、オーナーであり78歳の今も現役でご活躍の、名サルト(仕立て職人)として広く知られるアントニオ・リヴェラーノさんに、半ば強引に勧められ、ついには逃れられなくなり、初めてのフルオーダースーツをお願いすることになったのです。
イタリアのクラシックスーツは、都市ごとに特徴があります。例えばローマは肩パッドがしっかり入って、かなり構築的。それとは対照的に、ナポリは肩パッドをほとんど使わず、ナチュラルなショルダーラインです。その中間がミラノ。すごく大雑把ですが、だいたいこんな感じです。

フィレンツェは、ミラノとナポリの中間といった感じでしょうか。仕立て方もユニークで、通常胸ポケットからまっすぐ下に向かってダーツが入るんですが、これがありません。代わりに脇から腰ポケットの外寄りに向かって斜めにダーツが入ります。肩の縫い目も、通常より大きく後ろに流れています。
以前も書きましたが、僕が初めて買った本格的なイタリアンクラシックスーツは、「サルトリオ」のチャコールグレーのものでした。そこからほんの少しずつ明るいグレーを買い足して、ようやくこのミディアムグレーに辿り着きました。ここまでは無地ばかりで、ストライプスーツを買ったのは、さらに後になります。
このスーツの良さは、“中庸”ということに尽きると思います。フォーマル過ぎず、くだけ過ぎもしない。身体に沿ったナチュラルなフォルムで、色も偏りの無いミディアムグレー。肩ではなく首にしっかり乗るので、着心地はとにかく楽。着込むにつれて、形も身体に馴染んできました。結局ワードローブのなかで、このスーツがもっとも使用頻度の高いものになりました。

僕がなぜここまで、クラシックスーツにこだわるのか。まずは普遍的な美しさをそなえた、エレガントなスーツだということが挙げられます。どこに着て行っても恥ずかしくない、オールマイティなスーツ。服に着られるのではなく、着る人と一体となり、着る人を引き立てることができるものです。
そしてスーツに関しては単純に、モードブランドのものより、クラシックスーツのほうがカッコ良いとも思っています。またクラシックスーツをしっかり着こなせる男のほうが、圧倒的にカッコ良いと信じています。
しっかりとした仕立てのクラシックスーツは、本当に着心地が楽です。スーツを肩が凝る厄介な代物だと思っている方は、試着ででも一度、仕立ての良い高級なクラシックスーツを着てみてください。大げさでなく、ニットカーディガンと大差の無い、軽い着心地や動きやすさに驚くはずです。
では、予算が限られるなか、実際にどこで何を買えば良いのか? 僕がお勧めするのは、男性誌に頻繁に登場する、有名セレクトショップのオリジナルスーツです。普段3万円台のスーツを買っていらっしゃる方にとっては、2倍ぐらいの予算が必要になります。それでも、あえてお勧めします。
これらのスーツは、コストパフォーマンスが抜群に優れています。着心地もとても良いです。以前、フィレンツェの名店、「タイ・ユア・タイ」のフランコ・ミヌッチさんにお聞きしたときにも、「同じお金を払ってイタリアで買うスーツより、仕立ては遥かに上」と仰っていました。試してみる価値は、間違いなくあります。
Photo:Tatsuya Hamamura
Text:Kotaro Yamada

山田恒太郎(改め“隠居系”)
1990年代後半から『BRUTUS』、『Esquire日本版』、『LEON』、『GQ Japan』などで、ファッションエディターとしてそこそこ頑張る。スタイリストとしては、元内閣総理大臣などを担当。本厄をとっくに過ぎた2012年以降、次々病魔に冒され、ついに転地療養のため神戸に転居。快方に向かうかと思われた今年(2016年)4月、内服薬の副作用で「鬱血性心不全」を発症。三途の川に片足突っ込むも、なんとかこっちの世界に生還。「人生楽ありゃ苦もあるさ~♪」を痛感する、“隠居系”な日々。1964年生まれ。神戸市出身。
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