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FASHION 僕が捨てなかった服

“隠居系”山田恒太郎 第4回 「ステファノ・ベーメル」の靴

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人生には、どうしても手放せなかった服、そう「捨てなかった服」があります。そんな服にこそ、真の価値を見出せるものではないでしょうか。そこで、この連載では、ファッション業界の先人たちが、人生に於いて「捨てなかった服」を紹介。その人なりのこだわりや良いものを詳らかにし、スタイルのある人物のファッション観に迫ることにします。

二度と手に入らない、プライスレスな宝物

人生には、どうしても手放せなかった服、そう「捨てなかった服」があります。そんな服にこそ、真の価値を見出せるのではないでしょうか。この連載では、本当に良い服、永く愛用できる服とは何かについての、僕なりの考えをお伝えしていきます。そして同時に、皆さんがワードローブを充実させ、各々のスタイルを構築するうえで、少しでもお役に立つことができれば嬉しい限りです。

さて、今回はイタリア、フィレンツェでオーダーした「ステファノ・ベーメル」の靴です。「天才靴職人」、「革の魔術師」などと形容された彼が、2012年7月に48歳の若さで亡くなったのは、ずいぶん後になってからネットで知りました。ショックを受けて、長時間、その経緯を検索し続けました。返す返す残念でなりません。

オーダーしたのは1998年10月3日。前日に雑誌『BRUTUS』の取材で店を訪ねた時に、どうしても1足作りたくなり、翌日の早い時間に再訪したのです。当時僕はスーツには、フォーマルな時にはストレートチップを、もう少しモード寄りな着こなしの時にはダブルモンクのブーツをというような感じで、「ション ロブ」のものをよく合わせていました。

そこでイタリア的なデザインで、もう少しカジュアルな感じで良いと思い、ノルベジェーゼ(アッパーとソールの境目のステッチなどに特徴が見られる製法です)のUチップで、革は表面に凹凸のあるグレインレザーを選びました。サンプルとして見せていただいた靴には、つま先に縦に縫い目が入っていたんですが、無いほうがエレガントだろうということで、ベーメルさんと相談して、これははずしていただきました。

東京の自宅には、僕のイニシャル入りのシューケアセットと一緒に、立派な木箱に入れられて届きました。早速部屋のなかで試し履きです。オーダーシューズですから、当然、僕の足にピッタリのサイズで作られています。靴に足を入れようとすると「シューッ、シューッ、シュポッ」と空気の抜ける音がします。「足、小さい!」というのが、履いた時の第一印象でした。そしてとくに驚いたのが、土踏まずのフィット感。最大公約数で作られる既製靴とのいちばんの差は、ここに出るんだと知りました。

この靴はフォーマルなシーンには不向きですが、どんなスーツにも合わせやすく、かなり活躍してくれました。グレインレザーはカーフと比べると傷が目立ちにくいのも助かりましたし、「ジョン ロブ」だと躊躇するような雨の日にも、気にせず履いていました。

オーダーしてからもうすぐ18年ですが、今も変わらず、足元を美しく飾ってくれています。丸過ぎず、かといって鋭角過ぎるわけでもない絶妙なトウシェイプなど、今見ても本当に綺麗だなと思います。中底が足の形に合わせて良い具合に沈み、フィット感はさらに増しました。

もう二度とベーメルさんに靴を作っていただくことはできません。この靴は、僕にとってはプライスレスの宝物です。これからもあまり酷使せず、しっかりケアをして、一生履き続けようと思います。

Photo:Tatsuya Hamamura
Text:Kotaro Yamada

山田恒太郎(改め“隠居系”)
1990年代後半から『BRUTUS』、『Esquire日本版』、『LEON』、『GQ Japan』などで、ファッションエディターとしてそこそこ頑張る。スタイリストとしては、元内閣総理大臣などを担当。本厄をとっくに過ぎた2012年以降、次々病魔に冒され、ついに転地療養のため神戸に転居。快方に向かうかと思われた今年(2016年)4月、内服薬の副作用で「鬱血性心不全」を発症。三途の川に片足突っ込むも、なんとかこっちの世界に生還。「人生楽ありゃ苦もあるさ~♪」を痛感する、“隠居系”な日々。1964年生まれ。神戸市出身。



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