豪華絢爛なタッチが世界を魅了し続けた女性ピアニスト
先日、世界を舞台に活躍されたピアニスト中村紘子さんが逝去されました。
小学校1年生の時に母が中村さんのコンサートに連れて行ってくれたのですが、その時がプロのピアニストの方の生演奏を聴く初めての機会だったこともあり、震えるほどに感動したのを覚えています。

当時ピアノの先生が「心の中でよく謳って」と私に言っていたのですが、その頃にはそれが一体どういうことなのか、あまりピンときませんでした。ところが、中村さんの演奏を聴いた時に「謳うってこういうことか」と、感じることができたように思います。
中村さんの演奏はとてもダイナミックで幻想的。誰もが耳にしたことがあるはずの「ピアノ協奏曲 第一番」(チャイコフスキー)を豪華絢爛なタッチで弾かれたあと、アンコールで「さっぱりとしたデザート」のように「子犬のワルツ」(ショパン)をさらりと弾かれ、ニコッと笑いながら舞台を去っていったのが印象的でした。数年後、ピアノの先生に「どうしても弾きたい!」と頼み、発表会で「子犬のワルツ」を弾いたのを今でも鮮明に思い出します。
中村紘子さんといえば、ピアノを習うものにとってまさに「神様」のような存在。後に調べたところ、その時期は、20世紀最高の音楽批評家の一人とされるハロルド・ショーンバーグ(ピューリッツァー賞受賞)が、ピアニストに関する代表的な名著『偉大なピアニストたち』の中で東洋人ピアニストとしてただ一人中村紘子さんの名を挙げ、その特色を「絢爛たる技巧」と「溢れる情感」、そして特に「ロマンティックな音楽への親和力(affinity)」と、絶賛していたことを知りました。

他のピアニストとは違う、流れるような優雅さと情感溢れる表現で世界を魅了し続けた中村紘子さん。昭和の時代から日本のピアニスト第一人者として長年にわたり活躍されたのはあまりにも有名です。ご本人の優雅なイメージも相まって、日本での「ピアノ」そのものが美しく高貴な音楽芸術と印象づけられたと言っても過言ではないでしょう。
中村さんは天国に旅立たれましたが、残された音源は不滅。悲しい出来事があったときに、必ず思い出すピアノの先生からの言葉を今回も思い出しました。「音楽はいつも私たちの傍にいてくれて、心を明るくし、悲しいときには慰めてくれますね」この言葉に今回も助けられています。
Top画像 photo:Hiroshi Takaoka
Text : 夏木クミリ
中村紘子Official Web Site
http://nakamurahiroko.com/