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「ミラーなんか見なくても運転できるわ…」事故りまくりの高齢父から「免許を奪還せよ」一族一丸となった大プロジェクトの顛末。

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「あの声で とかげをくらうか ほととぎす」 この世の森羅万象のウラ側を、FORZA STYLEの取材班が徹底取材。あなたの暮らしを守る、独自レポート。

連日、高齢ドライバーの交通事故のニュースが報じられている。多く、結びに語られるのが「ブレーキとアクセルを踏み間違えた」だ。

危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏はこう話す。

「令和2年内閣府が発表する交通安全調査によると16から19歳の若者世代の運転免許保有率が年々減少するのに対し、70歳以上のそれは年々増加を続けています。少子高齢化を表す数字ですね」。

さらに警視庁が発表している統計によると別の側面が見えてくる。

「こちらの発表によると人的要因別に見た高齢運転者の交通事故発生状況のほとんどは、発見の遅れによるものとされています。理由については注意力や集中力が低下していること、瞬間的な判断力が低下していること、

過去の経験にとらわれる傾向にあることなどがあげられています。本人では、なかなか気がつきにくいものです。身体的能力が低下していることを受け入れつつ、今一度、基本に立ち返った運転を心がけること、さらには免許返還を含めてどうやって運転との関係を維持していくのか各々が考えなくてはなりません」。

これは他人事ではない。免許を持つ人、そして免許を持つ高齢者が身内にいる人、そして車の通る場所で生きている人、すなわち全てに関係している問題である。今回は高齢の親の運転に恐怖を覚えたというある男性に話をうかがった。

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©︎GettyImages

近藤祥平さん(仮名・52歳)には、80代の両親がいる。

「田舎なので、車がなくては生活は不可能です。子が親の面倒を見るのは当然といういわゆる昭和的な家で育ちましたし、それになんの疑いもありません。いずれは両親と一緒に暮らすつもりですが、今はまだなかなか難しいですね」。

高校生と大学生の子どもをもつ祥平さんは、今1番お金がかかると嘆く。

「うちの子たちは小さい頃、保育園に通っていました。その頃の費用もかなりのものでしたが、高校生と大学生は桁が違いますね。年々、お金が必要になっていく感覚です。今すぐ、仕事をやめて田舎に帰ることは今の私には残念ながらできません。幸い、両親も年老いてはきましたが、入院するほどの病気もなく2人で元気にやってくれているのでそれはありがたいですね」。

だからこそ、そんな両親に運転を辞めるようにいうのは気が引けたと話す。

「買い物をするにも、病院に行くにも、何をするにも車がないとどうにもならないんです。最寄りの駅までは歩いて30分以上かかります。その上、電車は1時間に1本。バスやタクシーなんかも東京のように走っていませんし、田舎の交通インフラのメインはやはり自家用車なんです。1人1台は当たり前でうちにも去年まで2台ありました」。

去年までというのは?

「実はここ数年、母の運転が怪しくて…」。

幸い人身事故になることはなかったようだが、物損事故の回数が格段に上がったと祥平さんは話す。

「この5年くらい立て続けに車をぶつけるようになったんです。初めは路肩に駐車するときに擦るみたいな小さなことだったんですが、だんだん箇所が大きくなって…。最終的にやばいなと思ったのは、家のガレージに駐車するときにぶつけたとき。東京と違って田舎は家の敷地も広いので、ちょっとやそっとのことではぶつけないはずなんです。それに何十年も慣れ親しんだガレージでぶつけるとなると…」。

祥平さんは意を決して母にそろそろ運転をやめるように言ったという。もちろん母は大反対をした。

「そりゃそうですよね。車の運転を辞める=自由がなくなるということです。買い物にも自由にいけなくなってしまうんです。3輪タイプの自転車を勧めましたが、自転車に乗るほうが逆に危ないとめちゃくちゃキレられました。しかもなんで、私だけやめなきゃならないのかと。うちの両親は同級生なんです。対抗心みたいなものもあったのかもしれません」。

祥平さんはなんと3年以上かかって、母に車から降りる決断をさせたという。

「長かったですね。帰省のたびに母の車に乗せてもらっていたんですが、本当にひやっとすることが多くて。例えば、車線変更をほとんど確認しないまま行ったり、信号で止まった後の発進が遅かったり、急だったり…心配になることが多くて。なんていいますか、感覚でやっている感じなんですよ。考えて運転をしていない、そういう雰囲気でした。乗るたび指摘していたんですが、それがまずかったみたいです」。

母は祥平さんを車には乗せてくれなくなったそうだ。

「あんたと乗るといちいち言われて面倒だから嫌だと。機嫌を損ねてしまったんですね。見かねた父も加勢してくれて、母にまずは運転を減らすように話したんですが、2人でよってたかって!と逆に怒りを買ってしまいました。最終的に母が運転を辞めると決めたのは、孫であるうちの息子が車に乗ったときのことでした」。

大学生の息子は、免許を取ったばかり。

「母はいいところを見せようと自分の運転で息子を駅まで迎えにいったんです。ところがロータリーのガードレールに大胆に擦ってしまって。かなり動揺していたようで、息子がそれに落ち着いて対処したようです。これからは田舎にきたら、僕が運転するよと息子が運転を代わって家まで帰ってきました」。

結局、母は免許返納を決めたという。

「どこか諦めきれないという印象もありますが、孫に念押しされたのが効いたみたいです。今年中に返納すると約束しました」。

こうして母の免許返納に成功した祥平さんだったが、次に待っていたのは父だった。

プライドの高い父はどのようにして車を手放すことにしたのだろう。その詳細を【後編】でお届けしていこう。

取材・文/悠木 律



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