朝に畑仕事。帰って涼んで夜に外食。23時ごろに体調急変…
熱中症にかかりやすいとされる高齢者のみならず、中学生までもが命を落とすこととなるなど、今年の猛暑はとんでもないレベルに達している。総務省消防庁によると7月17日から23日までの1週間、全国で熱中症によって搬送された人の数は9190人。前の週の8189人から1000人も増えている事になる。
今年の夏は異例の暑さだ。37℃と体温を超えるような日が連続しており、体力の消耗を感じている人も少なくないだろう。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏も警鐘を鳴らす。
「この夏は暑さは尋常ではありません。野外はまるでサウナのような状態で、都心では夜に気温が下がり切らぬまま、朝を迎えるため、朝7時の時点でもう30℃近い日がほとんど。6月に電気代が値上げしたことも相まって、一般市民は悲鳴をあげているというのがリアルでしょう。一昔前のエアコンなしでもなんとか凌げるという常識は、もはや通用しません。お年寄りや小さな子供、さらには激しい運動や野外作業をする人はもちろんですが、普通に生活をしていても熱中症の危険にさらされています」。
「とはいえ、成人がそう簡単に熱中症にはならないでしょう」とたかを括っていたと話すのは、遠藤元さん(仮名40歳)。先日まさに、熱中症で救急搬送されたというのだ。
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ことの始まりは、週末に趣味で行っている畑作業だった。
「このシーズンは夏野菜の収穫ピークで、とにかく毎週畑に通い詰め。ただ、ものすごく暑いのでなるべく早い時間に作業を終えようとその日も少し寝不足でしたが、7時には畑についていました。そこから3時間ほど、野外で作業。その日も37℃を超える猛暑で、とにかく暑かったです。もちろん、水分は取りながら作業をしていました」。
帰宅したのは昼前。シャワーをあびて楽しみにしていた昼ビールを飲んだという。
「畑の後のこれが楽しみでやっていると言っても過言ではありません。とにかくこのビールが最高に旨い!その日はちょうど、家族がかき揚げを作ってくれてそうめんで昼食を済ませました。これもルーティンなんですが、だいたいこういう日は昼寝しちゃうんです。朝も早くて疲れてたんで」。
元さんはこの昼の晩酌の間、水は一滴も飲んでいなかったと話す。
「午前中の作業中に水分を摂りましたから、すっかり安心してしまっていたんです」。
夕方目が覚めると酒を飲んで昼寝をしたとき特有の気だるさがあったらしい。
「もしかしたら、このときすでに熱中症にかかりはじめていたのかもしれません。でも僕の頭の中には熱中症という発想はまるでありませんでした。野外ならまだしも、冷房の効いた部屋の中で昼寝をしただけですから。だからいつも通りのことだと気に留めることはありませんでした」。
夕方からは映画館へ出かけたそうだ。
「家族で映画を見て、ラーメンを食べて帰宅しました。ビールを1杯とレモンサワーを飲みました」。
帰宅したのは23時頃。帰りの電車でなんだか少し気持ち悪いと感じたという。
「二日酔いみたいな感じって言えばいいんですかね。ちょっと込み上げてくるような…。疲れているのかなと思っていましたが、段々と気持ち悪さがまして、家に辿り着いたもののトイレに直行。そこからしばらく、出てこれないほどの吐き気と頭痛で本当にやばかったです」。
立ち上がることができないほどの吐き気と頭痛。ここでもまだ体調の急変の理由が、まるでわからなかったと話す。
「朦朧とする中で唯一思いついたのは食中毒。ただ、食べたのはラーメンと餃子くらいなものなのでそれもあまり腑には落ちませんでした。1時間近くトイレで過ごし、なんとかベッドまで移動して、少し横になったのですが気持ち悪さとともに今度は喉の渇きも感じ始めました。妻に水を持ってきてもらって飲んだのですが…」。
飲んでも飲んでも渇きが癒されなかったらしい。
「飲めど飲めど全然喉が潤されないんですよ。その上、水を飲みすぎた気持ち悪さがやってきて…もう本当にどうしたらいいかわからない状態でした。そのあたりから私は記憶がなくて、妻に言わせると呼びかけへの答えが曖昧になり始め、怖くなって救急車を呼んだと。結局、それで救急搬送されてしまったんです」。
到着後、点滴治療を受け、しばらくして意識が戻った元さんは、医者から病状を告げられて驚くことになる。後半ではさらに熱中症の危険に迫っていく。
取材・文 悠木律