親の思うとおりに行かないのが子育てなのだが、真面目な優等生だった自分の子供が、突然、夜の華やかな世界に魅了されてしまったら…。
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弊社を訪れた両親は、見るからに疲弊していた。父親の方が、特に衰弱している様子で
「本当に小さなころから、手のかからない、真面目ないい子で……」
娘のことを、そう語った。
2年ほど前、依頼者夫婦の21歳の1人娘「神山 唯」(仮名)は、都内の名門大学に通い始めた。しかし一年後、突然、娘が両親に
「学校をやめて、就職する」
と、宣言した。しかも、聞けば、就職先も決まっていて、それが繁華街にある「ガールズ・バー」だという。依頼者夫婦は訳が分からず、必死で娘を引き留めたが、娘の決心は全く揺るがず、一か月後には、一人暮らしをするための部屋まで決めて、さっさと家を出て行ってしまったそうだ。
「元々、意思が固くて、自分で決めたことは、しっかりやり遂げるタイプの子でしたが、大人しくて、浮ついたところなんて全くないんです。それが、どうして『ガールズ・バー』なんかに!」
母親は、怒りをどこに向けて良いのかわからない様子だった。
「私たち、これまで夜の渋谷なんて、ほとんど行った事がないですし、ましてや『ガールズ・バー』で、娘がどんな仕事をしているのかもよくわかりません。だからといって、私たちが行けるような店ではないのでしょうし、一体、娘がどんな仕事をしているのかもわからず、正直、途方に暮れています」
父親が、力なく言った。
「娘さんに、新しい彼氏ができたというお話はありませんでしたか?」
そう尋ねると、父親は一瞬ハッとしたような表情をして、すぐに俯いてしまった。代わりに母親の方が、口を開いた。
「それも、含めて調べていただけませんか?これまで、彼氏がいたなんて話は聞いたとこもないのですが……。ただ、先週、娘の家を訪ねた時、中には入れてくれなかったんです」
「とにかく、娘がどんな環境で働いているのか調べて下さい。場合によっては、力づくで連れ戻さないとなりません」
探偵:こころたまき