近所の原っぱは、自然の色の変化を見る学習場所
6月の旧名“水無月”は水の無い月ではなく、田に水が張られる水(無=の)月だったそうです。6月6日頃の「芒種(ぼうしゅ)」は稲や麦の穂先にある針を「芒(のぎ)」といい、穀物の種をまく時期、種は田植えの時期のことをいいます。
たうらう(かまきり)しょうず 蟷螂生ず 初候
ふそうほたるとなる 腐草蛍と為る 次候
うめのみきなり 梅子黄なり 末候
大人になったら、子どもでもいない限り、虫捕り網を持つ機会はそうそうないでしょうが、私は虫を捕るのが大好きで、15年ほど前にイタリアの白衣屋で作った『AKAMINE Royal Line』の白衣を着て、四季折々に近所で虫捕りをしています。
今の季節ならモンシロチョウ、クロアゲハ、キアゲハなどを探して歩き回りますが、虫捕りは私にとって、四季の移り変わりを身近に感じながら、自然の色の変化を見る学習場所でもある。まぁ、単純に楽しいのですが。
さらに、この頃の楽しみのひとつは“蟷螂(かまきり)”で、毎年1月~2月の寒い頃、多摩川の河原で枯れたススキに生み付けるカマキリの卵の探検に出かけます。今年は5つほど見つけて、ゲット!!したとき、思わずニヤリとして持ち帰りました。
数年前のこと、たまたまうかつにも事務所のベランダに置くべき大切な卵を部屋に置き忘れたとき、外はまだ寒い4月のある朝、出勤すると壁に無数の赤ちゃんカマキリが数百匹も歩き回っていました。それを1匹1匹、そ~うっと紙ですくいベランダの植え込みに戻したのもこの頃です。
写真集に参加して、見て思う、“日本男児のあるべき姿”
私の事務所「INCONTRO」のブログにも書きましたが、5月31日に発売された写真集『JAPANESE DANDY Monochrome(ジャパニーズ・ダンディー・モノクローム)』(万来舎刊)に私も登場しています。
メンズファッション界の話題となった『JAPANESE DANDY』の続編で、市井で活躍するダンディー170名をモノクロで撮影した写真集ですが、私が何を着て登場しているかはページをめくる楽しみにしていただいて、完成した写真集を見て思ったことを少々。
写真の色彩を抑えることで、人の内面を浮かび上がらせようという意図はわからなくもないですが、ページをめくるほどに、自分が学生時代に教科書として熟読したルネ・ユイグ著『見えるものとの対話』(美術出版社刊)から学んだことを思い出しました。私はこの本に「美しさとは何か」ということを徹底的にたたき込まれたのです。
日本人に内在する毅然とした生き方とはなにか
『暮しの手帖』を作り続けた花森安治は、カメラマンに向けて「その人の心を撮るんだよ」と言ったそうです。また、『ローマ人の物語』(新潮社)など歴史に現れる男たちを書き続ける作家の塩野七生は、「日本の政治家にはいい男がいない」とインタビューで答えています。
ジャパニーズ・ダンディーというテーマの本質、あるいは日本人の本質を赤峰流に解釈すると、今回の写真集の表現は“格好良すぎる”。ヨーロッパ的な格好良さとは違う、欧米人には真似することができない、「あ、これが日本人だよな」と思わせる“粋さ”がもっと伝わってきてもよかった。
私は日本人に生まれてきて本当によかったと思っています。私たちが持つ繊細さは、他に類を見ないぐらいすごいもので、その代表が季節感を反映する和食です。和食に見られる日本の美学はかつては着物の色柄に反映されていて、今なら洋服にも変換されるべきものですが、残念ながら着こなしは“衣装化”してしまっている。
日本人には生来、「脇差しを差して生きている」ような毅然さがあります。欧米人に比べて控えめな日本人に内在する毅然とした生き方とはなにかを、この写真集から若い世代の人たちは感じ取ってほしいと思います。
装いの中心となる“時代を超える基本の服”はありますか
ファッション業界で洋服が売れない理由のひとつに、「クローゼットが一杯だから新しい服を買わない」とよく言われますが、クローゼットの中の服を改めて見直してみると、装いの中心となる“時代を超える基本の服”がないことに気づくのではないでしょうか。
ファッション性の高さやトレンドを追って服を着てきた人にとって、たとえば「20年着ている服=基本」がクローゼットにない。自分の装いの中心がぽっかり空いてしまっています。
20年着ている服をたくさん持っていて、今でも着用している私には、「普通だけど違うんだよね」「なんていうことないんだけどカッコイイんだよね」というのが最高の魅力です。服、音楽、映画、食べもの、あるいは女性まで、そういう空気感をもったものに惹かれます。
洋服でいう“香の物”は、ポケットチーフやネクタイ
甘党の私は、三角の氷に見立てた和菓子「水無月」が好物。白いういろうの上に甘く煮た小豆をのせて、夏を乗り切る昔の人の知恵を感じます。
芒種の頃に着たいコーディネートは、2018年春夏の「フォックスブラザーズ」の生地を使って仕立てた「AKAMINE Royal Line」のジャケットに、白のシャツと「ステファノビジ」のネクタイ。結んでいない「マイケル・ドレイクス」のネクタイもお気に入りです。
ジャケットを白ボタンにしたのは、軽さを表現して、ブレザーな気分を着たかったから。そしてネクタイはレジメンタルが気分。欧米では所属を表すレジメンですが、今の気分は、まさに「基本に戻りたい」ですね。
次回、連載10回目は、6月21日頃の“夏至(げし)”。太陽の姿さえ見えない梅雨の真っ最中、雨降花の一つ、昼顔が雨に濡れて美しい季節です。
Photo:Shimpei Suzuki
Text:Makoto Kajii
ジャパン・ジェントルマンズ・ラウンジ
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JAPANESE DANDY
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