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FASHION 僕が捨てなかった服

“隠居系”山田恒太郎 第9回 「グッチ」「ラルフ ローレン」のカシミアセーター

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人生には、どうしても手放せなかった服、そう「捨てなかった服」があります。そんな服にこそ、真の価値を見出せるものではないでしょうか。そこで、この連載では、ファッション業界の先人たちが、人生に於いて「捨てなかった服」を紹介。その人なりのこだわりや良いものを詳らかにし、スタイルのある人物のファッション観に迫ることにします。

着るのは“心地良い服”だけ

人生には、どうしても手放せなかった服、そう「捨てなかった服」があります。そんな服にこそ、真の価値を見出せるのではないでしょうか。この連載では、本当に良い服、永く愛用できる服とは何かについての、僕なりの考えをお伝えしていきます。そして同時に、皆さんがワードローブを充実させ、各々のスタイルを構築するうえで、少しでもお役に立つことができれば嬉しい限りです。

さて、今回紹介するのは「グッチ」と「ラルフ ローレン」のカシミアセーターです。カシミアに求めるのは、言うまでもなく優しい肌触り。“永く愛用できる服”に欠かせない要素である、“着心地の良さ”についても改めて書いてみようと思います。

これは「グッチ」のセーターです。素材はカシミア100%。デザインはプレーンなクルーネックです。コレクションラインが華美なので意外と見落とされがちですが、「グッチ」はベーシックな服も充実しています。しかも仕立て、素材使いetc.どのアイテムもとにかく高品質。イタリアに行くたびにミラノやフィレンツェのショップに必ず立ち寄るほど好きなブランドでしたし、カシミアセーターもいろいろなタイプのものを買いました。

こちらは「ラルフ ローレン」のセーター。同じくカシミア100%のクルーネックです。「グッチ」のものと同じように独特のぬめり感があり、肌触りも格別で高品質のカシミアだというのがすぐに分かります。

これ以外にカシミアセーターをよく購入していたのが「プラダ」でした。「グッチ」と「プラダ」はともにモード系のトップブランドでありながら、ベーシックなデザインのニットが充実していて、カシミアもとても良いものを使っていました。一般的な製品と比べると圧倒的にソフトで、とにかく“ふわふわ”。着ていても本当に気持ちの良いものばかりでした。

今、手元に残っているセーターは、春夏用のコットンを除くと、すべてカシミアです。ウールは1点もありません。よく着るものを優先的に選んで絞り込むと、自然とこうなってしまいました。

この連載で過去に紹介したアイテムを振り返ってみると、“着心地”や“履き心地”の良いものばかりが残っているのに改めて気づきます。「A.カラチェーニ」や「リヴェラーノ&リヴェラーノ」のスーツ、「サルトリア・アットリーニ」のコートは、すべて丁寧な仕立てでしっかり首に乗り、まったく重さを感じさせない服。高い位置で袖付けされているので腕も動かしやすく、長時間着ていても“疲れる”などというのとは無縁のものです。

オーダーメイドの「ステファノ・ベーメル」の靴は、当然ながら僕の足にピッタリのフォルムで、靴の中のどこかが当たって不快な思いをするというようなことは皆無です。土踏まずがしっかりサポートされて、長時間履いても何も問題ありません。

素材に目を転じると、「グッチ」や「ルッフォ」のレザーブルゾンは、ソフトでしなやかなナッパ。「サルトリア・イプシロン」のシャツはコットンでありながら、まるでシルクのように滑らかな生地が使われています。それぞれのアイテムのなかでは最上級ともいえる着心地を備えたものばかりということです。

以前も書きましたが、僕は20歳前後の頃はデザインコンシャスな服が大好きでした。服を選ぶ際にもっとも注目したのは、デザインでした。その後30歳前後で自分のスタイルといえるものを確立した頃には、デザインよりもむしろ“作り”や“素材”など、着心地に直結する部分を重視するようになっていました。今残っている服や靴を見ても、そのような服選びの基準の変化は、正しい方向に進んでいたように思います。

“良い服”とは何かという時に、デザイン面を重視する考え方ももちろんあるでしょう。でも今、僕はそれが最優先だとは思っていません。服を着ることの真の悦びは、流行を追いかけたり、人に注目されることによってではなく、着た時の心地良さや充足感から得られる。これが20年以上変わらず僕が抱いている、服に対する考えです。

Photo:Tatsuya Hamamura
Text:Kotaro Yamada

山田恒太郎(改め“隠居系”)
1990年代後半から『BRUTUS』、『Esquire日本版』、『LEON』、『GQ Japan』などで、ファッションエディターとしてそこそこ頑張る。スタイリストとしては、元内閣総理大臣などを担当。本厄をとっくに過ぎた2012年以降、次々病魔に冒され、ついに転地療養のため神戸に転居。快方に向かうかと思われた今年(2016年)4月、内服薬の副作用で「鬱血性心不全」を発症。三途の川に片足突っ込むも、なんとかこっちの世界に生還。「人生楽ありゃ苦もあるさ~♪」を痛感する、“隠居系”な日々。1964年生まれ。神戸市出身。



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