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FASHION 僕が捨てなかった服

“隠居系”山田恒太郎 第7回 「グッチ」のレザーブルゾン

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人生には、どうしても手放せなかった服、そう「捨てなかった服」があります。そんな服にこそ、真の価値を見出せるものではないでしょうか。そこで、この連載では、ファッション業界の先人たちが、人生に於いて「捨てなかった服」を紹介。その人なりのこだわりや良いものを詳らかにし、スタイルのある人物のファッション観に迫ることにします。

必要なのは“流行”ではなく“スタイル”

人生には、どうしても手放せなかった服、そう「捨てなかった服」があります。そんな服にこそ、真の価値を見出せるのではないでしょうか。この連載では、本当に良い服、永く愛用できる服とは何かについての、僕なりの考えをお伝えしていきます。そして同時に、皆さんがワードローブを充実させ、各々のスタイルを構築するうえで、少しでもお役に立つことができれば嬉しい限りです。

さて、スーツなどクラシック系のアイテムとスタイルについては前回まででひと区切りということで、今回からはそれ以外の服について書いていきます。今回紹介するのは、18年間愛用している「グッチ」のレザーブルゾンです。

これは購入時の記録が残っていました。1998年10月3日。以前紹介した「ステファノ・ベーメル」の靴をイタリア、フィレンツェでオーダーした日です。その2日前には「リヴェラーノ&リヴェラーノ」のスーツをオーダーしていますし、「グッチ」ではこのレザーブルゾンより高価な、ローゲージで超厚手の、カシミアのアラン風セーターも一緒に買っています。散財しまくりといった感じですが、この頃手に入れたものの多くが今も手元に残っています。集中的に、“長い目で見た買い物”をしていた時期だというのが分かります。

素材はナッパ。山羊や子羊のソフトでしなやかな皮革を指していたんですが、今は牛革でも同じように加工したものはそう呼ぶようです。裏地はウール・カシミア。デザインはすごくシンプルです。これだけなら他のブランドでも良さそうなものですが、素材自体の高級感や少しタイト気味のシャープなシルエットなど、他にはない魅力が詰まった一着です。ナッパのレザーアイテムを着るようになってから、硬い牛革のものは一切着なくなりました。スーツと同じで、いったん着心地の良さを知ってしまうと、元には戻れなくなります。永く愛用できる服の、とても大切な要素なのは間違いありません。

一般的にはクラシックスーツが好きな方のカジュアルな服装というと、同じようなクラシック系のブランドやショップのカジュアルラインからアイテムを選ぶことが多いと思います。でも僕はモード寄りのものばかり選んでいました。スーツスタイル以外の仕事でモードブランドの服を扱うケースが多かったこともありますし、何よりスーツ以外は、クラシック系よりモードブランドのほうが断然カッコ良いと思っていたのがその理由でした。

ただ、モードブランドのアイテムをチョイスするといっても、あまりにもデザインコンシャスなものや、ファッショントレンドを強く意識させるものを選んでいたわけではありません。シルエットや素材感など、ごく限られた要素にのみ、その特性を求めていました。その結果、モードブランドのものであっても、永く愛用できるアイテムが多く残ったというわけです。

クラシックスーツ以外のコーディネイトでも、やはり各々の個性に重きを置いた“スタイル”は必要です。それを確立したうえで、着たい服を買い足していけば良いのだし、それがたまたまトレンドアイテムならそれを手に入れれば良い。でも流行アイテムだからという理由で買った服は、まず間違いなく、流行でなくなった途端に着たくなくなります。

クラシックスタイルをメインに扱う、フランスの『PARISIAN GENTLEMAN』というウェブマガジンがあります。そこで、この連載「僕が捨てなかった服」の第1回で紹介した、「A.カラチェーニ」について書いた記事がありました。見出しは“FASHION FADES,BUT STYLE IS FOREVER(流行は廃れるが、スタイルは永遠)”。これはクラシックスタイルに限らず、すべての装いに当てはまる言葉です。

僕自身、大学の入学式に着ていったのは「メンズ・ビギ」のサックスブルーのスーツです。出版社の就職試験に着ていったのは「コム・デ・ギャルソン オム・プリュス」の超ワイドショルダーのスーツでした。周りにそんな人間は1人もいませんでしたし、面接では重役に呆れた顔をされました。でもそんな事は気にならないぐらい、デザインコンシャスな服が好きでした。それから「ファッションって何なんだ?」と考え続け、紆余曲折を経て、自分のスタイルといえるものを確立したのは30歳前後でした。

自分のスタイルを確立してしまえば、“out of fashion”かどうかなど、まったく気にならなくなります。流行に乗っかって服を着るのが“お洒落”ということではないですし、ましてや流行を追いかけないと気が済まない、安心できない“fashion victim”になる必要など、まったくありません。

Photo:Tatsuya Hamamura
Text:Kotaro Yamada

山田恒太郎(改め“隠居系”)
1990年代後半から『BRUTUS』、『Esquire日本版』、『LEON』、『GQ Japan』などで、ファッションエディターとしてそこそこ頑張る。スタイリストとしては、元内閣総理大臣などを担当。本厄をとっくに過ぎた2012年以降、次々病魔に冒され、ついに転地療養のため神戸に転居。快方に向かうかと思われた今年(2016年)4月、内服薬の副作用で「鬱血性心不全」を発症。三途の川に片足突っ込むも、なんとかこっちの世界に生還。「人生楽ありゃ苦もあるさ~♪」を痛感する、“隠居系”な日々。1964年生まれ。神戸市出身。



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