母親であることの重圧は夫婦間・義両親とのあつれきなどさまざまあるが、「ママ友」に関する悩みを抱える人もまた後を絶たず、そのストレスに日々さらされている母親は少なくない。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏は、ママ友同士の関係性についてこう指摘する。
「ママ友が欲しいのにできないという悩みも耳にしますが、『苦手・嫌いなママ友がいる』『好きじゃないのにつき合わなければならないのがつらい』といった煩わしさを嘆く声も多く聞かれます。
人によってはストレスが強くなり、心身の健康に影響が及ぶ場合も。あまり無理をせず、切れる縁はタイミングを見て整理した方が良いのかもしれません」
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今回は、無理にママ友づき合いをしてきたという40代の女性が、お子さんの卒業を機に、つき合っていたママ友を「全切り」したいきさつについてお話しいただいた。
「優しくしてもらったママ友もいれば、もう顔を見たくない人もいましたし、いろんな方がいましたが、どのつき合いもしんどかったです。心からママ友とのつき合いを楽しんでいるように見える人もいたので、私に欠陥があるのかなと落ち込むこともありました」
こう話すのは、滝崎愛華さん(仮名)。中学1年生の女児を子供に持つ41歳の会社員だ。
「私はもともとの性格に加えて一人っ子というのもあり、人にあわせるのが苦手ですし、昔からの友人も『1人で行動するのが好き』という子が多いんです。
ですが、子どもを産んだ以上、子どもを通じて広く浅くいろんな人と接しなくてはなりません。子の保育園・小学校時代は私にとって修行であり苦行だった、という感じです」
自分の感情や希望を殺してでも、何とか協調性を絞り出してママ友とつき合ってきたという愛華さん。何がそれほど苦痛だったのだろうか。
「行事のたびに数人ずつの輪ができて大きな声でお喋りする、あのナゾ習慣。思ってもいないくせに他人の子を大げさに褒める胡散臭さ。そして、噂話と悪口。今の仕事の現場以外で、女の集団のメリットを感じた場面はありません」
しかし、クラスや習い事では、誰かが必ず「連絡のため」と銘打ったグループLINEを作り誰彼構わず招待する。
「仕事でチャットワークなどのビジネスチャットを使いますが、既読もつかないし事務的な雰囲気も出せるので、どうしても必要なら、ああいうのを使えばいいと思う」
保護者LINEは愛華さんにとって、言うなれば「首輪」だった。
「早めに返事をしなければ悪者扱い。最悪でした。事務的な連絡にも使われていましたが、学校の保護者ラインでは先生への不満などを言い合う井戸端状態になることも。個別にやれよって思う」
娘が小学校6年生になり、「あと1年の辛抱だ。これで切れる」と自分に言い聞かせてきた愛華さん。というのも……。
「娘が進学することに決まっていた中学では、『トラブルのもとなので、できるだけクラス単位での保護者LINEは作らないことをおすすめします』というお達しが学校とPTAからあるようだと聞き、『助かった!』と思いましたね。いま、実際に中学ではありません」
愛華さんは、娘さんが卒業すれば、毎年各学年の終わりにそうだったように、6年生のクラスの保護者LINEを終えられると思っていた。
「卒業式のあとに謝恩会があったので、その後に退会しようかとか、1人2人抜け始めたら、そのタイミングで抜けようかとか、いろいろ考えました」
ところが、卒業式のあとの謝恩会で、ママ友たちは子どものお祝いそっちのけでどうでもいいお喋りに興じ、さらにその後、会の幹事が涙を浮かべてこう言い始めたという。
「今年は最高のクラスだった。正直、ママたちもいい人ばっかりでめっちゃやりやすかった。中学行っても情報交換したりして仲良くしよう、という呪いの言葉を吐いたんです」
やりたい人だけでやればいいじゃん、というセリフが喉元まで出かかったが、そんな「暴言」を女の集団の中で放てる強者はいるだろうか、と愛華さん。
彼女は結局、卒業式の日はLINEを抜けることができなかった。
その後、なんとか「なるべく恨まれることなく」ママ友を全切りできないかどうか画策した愛華さんだったが、中学でもこのママ友たちと顔を合わせるシーンは十分にあるため、嫌われたり傷つけられたりすることへの恐怖心を拭うことはなかなかできずにいた。
そこへ新たに浮上したのが、娘が小学校卒業と同時にやめることに決まっていたバレエ教室の保護者LINE退会問題。
しかし、この困難な状況が、思いがけず愛華さんの「縁切り活動」を後押しすることになるのである。後編へ続く。
取材/文 中小林亜紀
PHOTO:Getty Images