「理子さんからの連絡が途絶えて、さらに一週間ほど経った時でした。チャット欄に受信マークがついていたんです。慌ててメールを開き、驚愕しました。チャットには『色ボケ野郎! これ以上、理子に近づいたらぶっ殺すぞ! 夫より』と書かれてあったんです」
洋平さんはショックを受けながらも、理子とのチャットを丹念に見直した。
「何度も読み直しましたが、不適切な内容はいっさいありません。日常の挨拶や小説に関することばかり。でも、彼はそうは思わなかった。出会いのきっかけが『既婚者専用のマッチングアプリ』と言うだけで、夫としては許しがたいことなのでしょうね」
洋平さんは続ける。
「僕の友人には、アニメファンが集うSNSで出会い、結婚に至ったカップルや、起業塾のSNSで交流を深め、付き合い始めたカップルもいます。中には不倫に至るケースもゼロではありませんが……。同じSNSでも趣味や起業なら健全で、既婚者専用と謳ったSNSなら不健全の烙印を押されてしまう。ちょっと腑に落ちませんね。」
『ぶっ殺す!』という言葉に恐怖を感じた洋平さんは、すぐに既婚者マッチングの『A』を退会した。
「ただ、プロフィール欄で顔写真を晒してしまったのは浅はかでした」
洋平さんは、『ぶっ殺す』の言葉が忘れられず、万が一に備え、伊達メガネで変装し、防刃ベストを身に着けるようになったという。
「猛暑の中、ジャケットの下にベストを着るのはしんどいんですが、命には代えられませんからね。黒いセルフレームのメガネは、顔の印象を変えてくれるのでありがたいです。ただ、これらはほんの気休めに過ぎず、通勤時や自宅付近、職場付近でも怪しい人物はいないか、周囲を警戒するようになりました。
日常にささやかな潤いをと思っていただけなのに、こんなにも大きな代償が待っていたとは……。話している今も、周囲が気になって落ち着きません」
そう言って「常に誰かに監視されているようで、心身共に参っている」とうなだれた。
洋平さんは、既婚者合コンについても話してくれた。
「先日、大学時代の同期4人と呑み会をしたんです。みな既婚者なので、さりげなく既婚者マッチングアプリの件を話題にすると、仲間の一人が『以前、女性とチャットで盛り上がったけど、なかなかリアルに会うことができない。会える女性はパパ活希望者ばかりで辟易した』と話しました。加えて、『既婚者合コンのほうが楽しかった』と言い出したんです。
もう一人も『既婚者合コンはワンナイトラブを期待している女性も多いから、手っ取り早く女性と親密になりたいなら、既婚者合コンが断然いい。運よくお持ち帰りできる確率もアプリより高い』と言っていました」
しかし、リスクも高い。
「僕の友人の信吾(仮名・46歳)が、『K』という会社が開催する既婚者合コンに参加したそうです。そこで出会った人妻・美奈さん(仮名・37歳主婦)といい雰囲気になってLINEのIDを交換し、後日、男女関係になってしまった。」
互いに家庭を壊す気はなく、信吾は「割り切った付き合い」が続くと信じていた。しかし、ある日「美奈の夫』」と名乗る人物からLINEを通じて呼び出しがあり、「うちの妻がお前に暴行されたと言ってる。どうしてくれるんだ!」と脅されたという。
「『合意の下でも不倫には変わりない。お前の家族には黙っている代わりに、慰謝料を払え!』と多額の慰謝料請求をされたそうで……。でも、その裏にはイベント会社が絡む大きな罠があったんです」
次回は、不倫関係になり、慰謝料を請求する驚きの手口について詳報する。
TEXT:蒼井 凜花