その屈託のない笑顔に、カズマさんの背筋に悪寒が走った。
「ゾッとしました。エスコートの流れで『好きです』と告げた言葉を真に受け、僕のプライベートに侵入してくる……許せませんよね。ただ、言われるままスマホを渡してしまった自分の浅はかさにも腹が立ちました。
女性客のストーカー化には気をつけるよう、店から注意喚起はされていたんです。先輩セラピストの中には、入浴中にカバンを物色されて、本名や勤務先、実家などを知られたケースや、既婚者だと分かり逆上された話も聞き、自分でも十分気をつけていたのですが……悔やんでも悔やみきれません。
でも、ここでシオリさんを咎めることはできなかった。自宅や勤務先、本名を知られたため、彼女を怒らせれば、女風で働いていることを会社にバラされる可能性もあると思いました」
最悪の状況だが、カズマさんはいつも通りに接客し、性感マッサージも行ったそうだ。
「施術中も、生きた心地がしなかったというのが本音ですが、シオリさんの満足そうな顔を見て、ひとまず安心しましたね。でも、このままずっと弱みを握られているのは……。
警察に行こうと思いましたが、できませんでした。ストーカーの被害届を出せば、女風で働いていることが会社や友人、家族にも知られるかもしれない。それを思うと、警察沙汰にはできません」
では、どのような対応をしたのだろう。
「まずは店側に伝えました。このようなトラブルは過去にもあったため、社長をはじめとした上役と共有しようと思ったんです。連絡をすると、すぐに本社に来るよう言われました。数人の上司とともに、『今回は特別だから』とシオリさんの身元を教えてもらったんです。
彼女は34歳の独身女性でした。チェーン展開する有名カラオケ店を経営する会社の娘で、いわば社長令嬢。リッチなお客様だと思っていましたが、自分で収入を得ることなく女風で楽しんでいたというわけです。
僕以外にも、他店のセラピストに同様のストーカー行為をしていた過去もありました」
そのような危険人物を、なぜ店側はカズマさんに教えてくれなかったのか。
「店側からはこんな説明がありました。
特定の女性客を『危険人物』と教えてしまうと、セラピストが必要以上に過敏になり、良いサービスや施術ができなくなることを懸念した。
だからこそ、店の注意事項の欄に『入浴時などに、お客様に持ち物を物色された事例があるので、金品や身バレするようなものには十分に気をつけること』と明記したそうです。僕も慎重さに欠けていました……」
勤め先への暴露を恐れ、警察沙汰にもできない客のストーカー行為。穏健にことを済ませるためには、どのように客にストーカー行為をやめさせればいいのだろうか?
後編では、女風の衝撃のストーカー対策について詳しくレポートする。
TEXT:蒼井凜花