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LIFESTYLE 女たちの事件簿

中1からヤングケアラー。「死にたい」という母を必死で慰めた由美さんの場合。

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不倫や浮気、DVにプチ風俗……。妻として、母として、ひとりの女性として社会生活を営み、穏やかに微笑んでいる彼女たちが密かに抱えている秘密とは? 夫やパートナーはもちろん、ごく近しい知人のみしか知らない、女たちの「裏の顔」をリサーチ。ほら、いまあなたの隣にいる女性も、もしかしたら……。

未来に胸を膨らませ、将来何になりたいかを模索する。そんな青春真っただ中のはずなのに、学校に通うことが難しい。その理由が “家族のケア”。これは現代日本で、ごく身近なところで起こっていることだ。

家族の介護やケア、身の回りの世話を担う子どもたちを意味する言葉 “ヤングケアラー”。今回は13歳からヤングケアラーとしての生活を余儀なくされた女性の話をしよう。

 

※この記事は取材を元に構成しておりますが、個人のプライバシーに配慮し、一部内容を変更しております。あらかじめご了承ください。

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現在30歳の由美さん(仮名)。母親と二人暮らしで、中学生の頃から母親のケアを1人で担ってきた。

「この生活が当たり前だと思って1日1日を乗り切ってきました。寝たい時に寝られず、自分のペースで物事を進められない。今思うと、生きてくことに何も希望を見出すことができず、何もやる気にならない……未来を想像することなど到底できませんでした」

希望に胸を膨らませながら中学に入学した由美さん。しかしほどなくして、母親がうつ病を発症したのだ。

©Getty Images

「母親が元気だったころの記憶はうっすらですが……学校から帰宅すると笑顔で『お帰り』と迎え入れてくれることが嬉しかった。そんな母が父と離婚し、1年ほど経過した頃から様子がおかしくなってきたんです。私の知っていた母親とは違う、まるで別の人のように」

家に引きこもりがちで、気分が落ち込むと些細なことでもひどく心配した母親。そのたびに由美さんが話し相手になり、心を落ち着かせたそう。

「母は、私が学校から帰宅する時間が少しでも遅くなると、不安感からパニック状態に。そんな姿を見るのが耐えられず、すぐに部活は辞めました。また、気分が落ち込むたびに、何度も私に向かって『死にたい、死にたい』と訴える母。何という言葉をかけていいのかわからず、泣きながら、『大丈夫。そんなこと言わないで』と繰り返していました」

病気の発症時、由美さんはまだ13歳だった。

「甘えることも、わがままを言うことも我慢し、母の言葉に幼いながらも一生懸命に耳を傾けました。元気になってほしい、“あの頃の母親”に戻ってほしいという一心で……」

当初は母親の精神的サポートが主だったという。しかし、由美さんは成長するにつれて、食事の準備、洗濯、買い物といった家事も担うように。それでも母親の症状はよくなるどころか悪化していき、うつ状態に加えてそう状態も繰り返し「双極性障害」と診断された。

©Getty Images

「うつ状態の時はひどく落ち込みますが、そう状態の時には、被害妄想が激しくなり、怒りやすく、自傷行為に及ぶこともありました」

母親のケア、家事など、年齢を重ねるごとに増していく由美さんへの負担。次第に家から出られなくなる日が増え、学校を休みがちに。

症状が出始めた中学一年生の時には、1年間の出席率は6割ほど。母親の状態が悪くなるにつれ出席率は低くなり、中学二年の二学期までには半分にも満たない状態に。1日1日をなんとか乗り切る生活の中、十分な睡眠時間の確保さえままならなく、由美さんの生活の中心は学校ではなく母親のケアとなっていった。

「その生活が『当たり前』になっていくにつれ、学校生活との両立ができなくなっていく。次第に、自分のやり方が悪いと思い始めました。欠席理由はいつも自身の体調不良。母の病のケアが理由なんて言えず、ましてや母が精神疾患を患っているなんて、周りがどう思うかと考えると口が裂けても言えませんでした。いつの間にか不登校の子というレッテルが貼られ、友達とも疎遠になっていき、学校に行きたいという気持ちも次第に薄れていきました」

©Getty Images

ケア中心に日常が進む中、由美さんは中学三年、高校受験を考える大切な学年に。

「私の日常の中から“学校”というものが消えていっても、世間はそうは思ってくれません。今思えばありがたいのですが、当時の担任から頻繁に連絡がありました。現状を話すような気持ちにはならず、とりとめもない話をする程度ではあったけれど、少しだけ学校という世界のことを思い出すきっかけにはなりました」

中学三年生になった自分。しかし、勉強もできず、塾にも通っていない自分はどうすればいいのか? 高校は行けるのか? 自分の将来はどうなるんだろう……不安ばかりが押し寄せてくる。どうしたらいいかわからないどころか、全く変わらない自分の日常。

「もう限界かもしれない」

そう思い始めた頃、由美さんに転機が訪れる。

後編に続く。



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