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「公開中止」や「撮り直し」……止まらないキャンセルカルチャーの行き先

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講演、メディア出演、執筆などを通じて、炎上の「火消し」からフェイクニュース対策まで幅広く発信している小木曽健氏によるネットニュース分析、推察コラム。

先週末のTBS「Nキャス」の終了間際、三谷幸喜氏が安住アナに向かって「今日は反省会しないで早く帰る! 深夜0時で(NHKの)『鎌倉殿』の配信が終わっちゃうんで」とブッ込み、それに対し安住アナが「見たこともない表情」で応じる場面がありまして。SNSの一部界隈ではバカ受けしていたんですが、真面目な話これかなり困った問題なんです。

タレントのスキャンダル、薬物・事故といった不祥事が起きる度に、降板だ、代役は誰だ、収録済みシーンは撮り直すのか、映画は上映できるのか、ソフトは販売中止したかって、もう大騒動ですよね。

「Nキャス」の話も、市川猿之助の騒動が事件化したことで、出演していた大河を始めとするドラマ作品が軒並み配信中止、予定されていたDVDの発売も見送り、既存の映像作品も再入荷予定無しになった例の件です。売れっ子だった猿之助だけに、経済的に大ダメージを喰らった、あるいは今後喰らうという方面は多いでしょう。

この手の話題になると、必ず「業界が勝手にやっている」というご意見を耳にしますが、実際はそんなワケ無くて、問題の根幹には、周辺企業にクレームを入れSNSでバッシングを拡散・展開させる、いわゆるキャンセルカルチャーの「活動家」たちの存在があります。SNSの時代ですからね、声のデカい人、必ずしも多数派と限らない方々が、ウッホウッホ騒ぎ出すのです。あの人たち、何であんなに一生懸命なんでしょうか。

「契約の違約金条項で補填される」という方もいますが、それはあくまでしっかりとした契約書を交わしている一部のケースであり、また違約金を「満額」支払える事務所ばかりでもなく、そもそも実際、多方面に影響が及ぶような損失を、違約金だけで穴埋めできるケース自体、あまり無いでしょう。つまりは泣き寝入りですよ。

これ我々消費者も、巡り巡って知らぬ間に、そのシワ寄せの一部を負担しているということです。それ以前に、有料のオンデマンド配信の利用者が、金だけ払って観たい作品が見られなくなったという「目に見える実害」がすでに発生しています。

「もうAIでいい……」になりかねない

や、いいんですよ。作品に罪はないと言いつつも、業界が活況でカネも体力もあって、「よっしゃ忘れて次行こう!」って言えるなら「な、なんか凄いっすね」って思うだけですが、クレームを気にするあまり、満身創痍で撮影済みシーンを撮り直し、CMを作り直し、完パケした作品を封印したところで、そもそもイチャモン付けてる人たちって顧客じゃないですからね。DVDも買わない、作品も見ない、勝ち名乗りをあげ、また次のターゲットを探しにいくだけ。

お気持ちキャンセルカルチャーによって、文化や業界が衰退するのは、割と現実に起こりうることだと感じています。いつか、今のギリギリが回らなくなれば、「あーもう、タレントも脚本家も演出家も、全部AIでいいよ」ってなりかねません。

街で可愛い子をスカウトして全身スキャン、声もサンプリングして、精緻なCGでそっくりに再現、そこに対話型AIをぶち込めば、スキャンダルとも事故とも薬物とも無縁な、実在するけど実在しない、リアルなAIタレントの完成です。

その子にAIで作った脚本を読ませ、AIによる演出でドラマやらせれば、うん、とっても安全。そして、それを眺める生身の私たち。どんなディストピアなのでしょうか。

そうなる前に、妙なキャンセルカルチャーはちゃんとバカにする空気、「え? 作品は関係ないっすよね? 」「なぜ彼らにクレームを? 」「はっはっは」という当たり前の空気感を作りたいと思っています。

だって、ディストピアは嫌ですから……。

 

Text:小木曽健(国際大学GLOCOM客員研究員)

※本記事のタイトルはFORZA STYLE編集部によるものです。



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