「日本産婦人科医会施設情報調査」によると、2022年までの16年の間に、産婦人科全施設は17%減少したという。中でも、分娩取扱診療所の数は1818件から1135施設へと38%減少し、一般病院は1003施設から563施設へ44%も減ったとされる。
居住地域に産科がない、出産できる施設がない、足りないという状況は、特に地方では珍しいことではなくなってきているようだ。産科医不足も指摘されるなか、安心な出産を望みつつ「異次元の不便さ」に頭を抱える女性の声から、現状の一端をご覧いただきたい。
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今回話を聞いたのは、東郷美里さん(仮名)。数年間妊活に取り組み、不妊治療を始める決意をした矢先に妊娠が判明したという35歳の会社員だ。現在妊娠6か月終盤で、経過は良好だそう。
「妊娠が判ってホッとしたのもつかの間、私の住んでいる地域には産科も助産院もないという現実にぶちあたりました。もちろん、産科がなくなったことは知っていたのですが、まずは妊娠したいという思いが強かったので、本当に出産施設がない件について問題意識を持ち始めたのは妊娠してからですね」
美里さんが住んでいるのは、人口5万人に満たない自治体。人口の減少に歯止めがかからないことやコロナ禍による観光業の不振により、財政は年々厳しくなっているという。
「公立の総合病院がひとつあるのですが、何年か前からポツポツと診療科が減っていると聞いています。祖母がかかりつけにしていた某科が縮小となり、それまでの先生が来なくなったんです。別の病院に変えましたが、しっくりこないと悩んでいます」
そしてついに産科も同じ憂き目に合う。
「産科の場合は徐々に規模が縮小されましたが、まさかなくなるとは思っていませんでした。甘かったですね。完全になくなるなんて......。でも、ついに消滅しました。婦人科はあるんですけど」
産科がクローズするという情報は市内をかけめぐり、反対や抗議の声が多数寄せられた。しかし、無い袖は振れないということなのだろう。多くの反対の声もむなしく、産科は予定どおりなくなった。代わりとなるような施設さえないのだろうか。
「助産院が市境にあるんですが、受け入れ人数が少ないし、そもそも助産院って医療機関じゃないですよね。私は初産で、しかも高齢出産の範囲に入るので、個人的な考えから助産院で産むという選択肢はありません。あちら側からも、年齢を理由に断られるかもしれませんしね」
美里さんは周囲の意見を聞き、多くの人がそうしているように隣市の産婦人科病院での出産を決め、毎回通って妊婦健診を受けることにした。
後編に続く。
取材・文/中小林亜紀