篠原玲香(45)は、昨日夫から投げかけられた言葉を反芻していた。
ーなんで、俺の妻と子どもたちの親だけで満足できないんだよー
「そんなの満足できるはず、ありませんよね。私はどこにいっちゃったの?って話ですよ本当に」
夫は時代錯誤な亭主関白。大手自動車メーカーに勤めている自分が家庭のすべてを支えていると疑わない。本人はバレていないと思っているようだが、不倫まがいのことだって、一度や二度ではない。それでも玲香が別れない理由はただひとつ。
「ほかにいい人がいないだけ」
子どもたちはともに大学生になり、バイトにゼミと忙しく過ごしている。帰ってこない日もあるほど、青春を満喫している。そんな彼らには、妊娠にだけは気をつけなさいと言うくらいだ。
「ほとんど巣立ったようなものです。男の子だし、私にできることはもう終わったかなって。家にいる理由もなくなったから、バイトを始めたんですけど、それが夫の癇に障ったみたいで……」
玲香は近所にできたシェアオフィスで仕事を見つけてきた。業務は受付と事務、さして難しい仕事ではない。
「受付嬢的な存在なので、年齢的にちょっと気が引けたんですけど。すんなり決まっちゃいました」
玲香は年齢よりずっと若く見える。大学生の子どもがいるようには到底見えない。
「さすがに20代には見られませんが、たいてい30代って言われます。この歳になると若く見られるのがいいんだか、悪いんだかわかりませんけどね」
家族にはバイトが決まったことを報告した。事後報告だったことも夫の気を損ねた原因だったのだろう。
「で、冒頭の言葉です。やってられないですよ、本当に。息子たちはいいじゃん!と喜んでくれたのが幸いですけどね」
しかし、このバイトが玲香の運命を大きく変えることとなる。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏が言う。
「子供を育てあげ、母親の役割から解放された女性は、やり残したことを取り戻すように社会活動に精を出すケースも多い。今回のケースのように、それが不倫のきっかけになることもあります。時代遅れの亭主関白な男性は、自分の言動が彼女たちを暴走させていることに気づかないまま、手遅れになってしまうのです」
次回では、玲香が職場で出会った年下男性の元に走るまでをレポートする。
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