PORSCHE 911の真価はデザインにあり
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「形態は機能に従う（Form Follows Function）」。
デザインの世界で語り継がれる格言は、ポルシェ911の本質と通底する。「移り変わる流行を追うよりも、普遍的な美しいスタイル」を提唱する小誌干場義雅編集長が、スポーツカーの代名詞的存在である「ポルシェ911」の魅力を分析した。
そのデザインは、本能が選ばせる
「私にとって911は、いつかは必ず手に入れたい車の筆頭です。街中でそのデザインに目を奪われることも多かったのですが、決定打となったのが、ロバート・レッドフォードとブラッド・ピットのW主演が話題になった映画『スパイゲーム』ですね。ラストシーンですべてのミッションを終えたR・レッドフォードが911に乗って去ってゆく。紳士が持つ色気を引き立てる名車の魅力に、思わずうっとりとしてしまいました」
ファッション・ディレクターとしても幅広く活躍する干場の目に、911はどう映るのか。
「洋服の頂上があるとすれば、それは世界屈指のテーラードが作った、グレーのスーツだと思います。派手さこそありませんが、上質な素材から作られたテキスタイルと、それを最高の技で仕立て上げる職人による作品です。着たものにしか味わえない陶酔をもたらしてくれるような……。911は、そんなグレーのスーツを彷彿とさせます。車を『移動の手段』と捉えれば、選択肢はほぼ無数です。でも、911に乗ることでしかもたらされない世界観と乗り心地を、オーナーに与えてくれます。その豊かさが具現化したのが、この独特のデザインなのだと思います」
変わりゆく環境と普遍性の狭間で
ときにオーバースペックが笑いものの種になる時代だが、911には911にしかない魅力が詰まっている。
「例えば、時計。日常生活ではオーバースペックなダイバーズウォッチやクロノグラフは、日々の生活でなくて困るものではありませんが、本能的に男心を満たしてくれる不思議な魅力がある。誰もが911に乗ってサーキットに行くわけではありませんが、人間の本能をドライブさせる稀有な存在ですよね」
初代911から最新型まで、911の基本となるパッケージは変わらない。リアに搭載されたエンジンは、ロスなくパワーを伝えるため駆動輪（後輪）に荷重を掛けるために配されたもの。フロントノーズが低くデザインされているのは、空気抵抗を低減するため。911の基本フォルムは、「速く疾る」ための必然の結晶といっていい。
「誰がどこからみても911とわかる視認性は、奇をてらったり造形美を競うなかで生まれたものではなく、走りの機能を突き詰めた結果から生まれたものです。デザインの本質が、この車には宿っていると思います。他人に言えないようなお金を洋服に投資してきた経験からたどり着いたのは、究極に着心地がよい服は、デザインも優れているということ。デザインだけが美しいものは、動きにくかったり、機能を損なうことがある。でも洋服の本質をとらえた一握りの一級品は、必ず機能とデザインが高次元で融合しているのです。そう、911のように」
911の運転席に乗り込む。目の前にはステアリング越しに3連メーターの眺めが広がる。一見アナログなデザインにも、ひと目でわかる視認性がある。
「初代911から乗り変えてもなんら違和感のない部分ですが、こんなところも脈々と受け継がれるポルシェの方程式なのでしょう。『形態は機能に従う』という格言は、まさに911の為にあるのかもしれませんね」
Photo：Ryo Toyoda
Text：Seiichi Norishige
Edit：栗原P
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『FORZA STYLE』編集長
干場義雅（ほしば・よしまさ）
東京で三代続くテーラーの家に生まれ、豊かな『服育』を受けて育つ。ビームスの販売員を経て編集者になり、日本版「エスクァイヤ」や「LEON」「OCEANS」で中心的な活躍をする。尊敬する人は、ロロ・ピアーナの元会長セルジオ・ロロ・ピアーナ、ピエール・ルイジ・ロロ・ピアーナ。トッズの会長ディエゴ・デッラ・ヴァッレ。スポーティでエレガントなイタリアンスタイルを愛する。趣味はクルーズと日焼けとカラオケ。
