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LIFESTYLE 日髙夏子のこじらせ映画評

「君の名は。」で涙腺決壊したワケ

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一番初めにもらったプレゼントって覚えていますか?

FORZA STYLE読者のみなさま、こんにちわ。
すっかり秋めいて来ましたが、いかがお過ごしでしょうか?
連載も2回目。今回はあの人気者を、僭越ながら“恋人”としてご紹介させていただきます。

さて、みなさまに質問です。今までの人生で、一番印象に残っているプレゼントって何ですか? FORZA読者の皆さんですから、仕事関係や恋人、家族などプレゼントを頂く機会も多いでしょう。では、次の質問です。そんなプレゼントの中でも、一番初めにもらったプレゼントって覚えていますか? そう言われるとなんだっけ?? と悩む方も多いかもしれませんが・・・。実は、誰もが同じもの。

それは、「名前」です。

生まれた時に、親や周りの方から授かる初めてのプレゼントこそが「名前」なんです。どんな人でも、初めて誰かからプレゼントされるものであり、死ぬまでずっと自分とともに存在し続けるもの。「名は体を表す」ということわざもありますが、まさに名前はその人の存在をあらわしてくれる自分だけのものです。そんな名前の重みを強く感じたのが、今回ご紹介する私の“恋人”、「君の名は。」です。

今回ご紹介する恋人は、あの「君の名は。」

©2016「君の名は。」製作委員会

日本中を席巻し、記録を更新しまくっているこの作品。ニュースでも、周りの人とのたわいの無い会話の中でもこのタイトルを耳にしない日はありませんが、可愛げが無い程にミーハー度合いが乏しい私は、正直に言うとほとんど期待しないで観に行きました。どうせ、高校生の甘酸っぱい青春ストーリーでしょ。

はいはい、私は20年間女子校ですからね。そんなキラキラした青春全くありませんでしたからね。学校が山の中にあるし男子がいないもんだから、猿のように毎日裸足で校内を駆けずり回り、本来共学ではモテる男子が担う役目であろう、応援団とかやっちゃってましたからね。でもある意味、この時が人生で一番モテていたかも・・・もちろん、女子の後輩に。

そんなこじらせた青春時代をおくってしまった私は、どうにもこうにも今流行りの胸キュン・壁ドン系ラブストーリー(全部一緒にしてごめんなさい)に全く心が動きません。きっとこの映画も同じだろうなーと思いながら、ある意味、覚悟を決めて臨みました。が…。そんな予想は木っ端微塵に打ち砕かれました。予想していた内容と実際の世界観とのギャップに一気に惹きこまれてしまい、私は「君の名は。」の世界に一気に恋に落ちてしまいました。

©2016「君の名は。」製作委員会

ご存知の方も多いとは思いますが、一応ストーリーを。1,000年に1度のすい星来訪が、1か月後に迫る日本(SFギライの人! もうちょっと聞いて!!)。山々に囲まれた田舎町に住む女子高生の三葉(みつは)は、複雑な親子関係や家系の神社の風習などに鬱々とする日々を過ごしていて、来世は憧れの都会で暮らすイケメン高校生になりたい!! と強く思っていました。そんなある日、彼女は自分が都会に暮らしている少年になった夢を見ます。

©2016「君の名は。」製作委員会

一方、東京に暮らす男子高校生・瀧(たき)も自分が田舎町に生活する少女になった夢を見ます。しかし、それは夢ではなく、二人の心と体が入れ替わっていたのでした。最初は戸惑っていた二人でしたが、徐々にお互いの間に強い絆を感じるようになっていきます。そして遂に、すい星が最も日本に接近する日が訪れ・・・。

ストーリーの通り、もちろん「イマドキ」の青春ラブストーリーではありますが、物語の中盤、その爽やかさが一瞬で恐怖に変わります。私たち日本人が忘れかけてしまっている、「あの現実」を思いっきり突きつけられ、正直に言うと苦しいほどでした。

今回の恋人(作品)が私に教えてくれたのは、「名前の強い意味」です。

©2016「君の名は。」製作委員会

三葉と瀧くんは、会ったことも見たこともない相手の存在を、まず認識するために名前を知ろうとします。そして、ことあるごとにお互いがこの世に存在していることを、名前で確認し、お互いの記憶の中に、相手の存在を“名前”で刻み込み込みます。むしろ、二人の間にはそれ以外に確かなものなんて何もなかったのかもしれません。それくらい、名前というものはその人の「存在証明」となる強い意味を持っていることを、この作品のタイトルが「君の名は。」だということからも実感しました。

大切な人の名前、あなたはどう呼んでいますか?

そんなこと言っていますが、実は私は人の名前を呼ぶことが苦手です。初めてお会いした年上だったり目上の方のことは、必ず「さん」付けで呼びます。失礼がない様な気がして、とりあえず安心するから。でも、それがなかなか抜けなくて・・・。仲良くなってからも、ずっと「さん」付けのまま、という方がたくさんいます。何より、付き合っている人のことも「さん」付けで呼び続けてしまったことがありました。だんだん距離が近づいていく中で、何度か親しい呼び方に変えてみようと試みるものの、心のどこかでまだ早いんじゃないか?と妙に畏まってしまい…。

それを、相手に指摘されることもあり、「なんかよそよそしいし距離を感じてしまうから、早く止めて!」と言われるのですが、なかなか止められない。それは、心のどこかで、相手との距離を詰めることが怖いからなのかもしれません。一気に距離を詰めてしまうことへの戸惑いと、それ以上に、一度距離を詰めてしまうと、その後、距離が離れてしまったことに気付いた時の寂しさに耐えられる自信がないから。もう、前の距離に戻ることが出来ないこともわかっているから。だから、相手のことを想っているからこそ、少しづつ少しづつ距離を縮めていきたいという私のワガママから来ているのでしょうか。

でも逆に、相手の名前の呼び方が変化することに、私はすごく敏感です。最初は「さん」付けだったのが、だんだん「ちゃん」になり、気づいたら呼び捨てになっている…。その変化に気づく度に、相手が自分に近づいてくれた、心を許してくれたと嬉しくなります。そして、自分の名前を呼ぶ相手の声のトーンや響きが、どんどん心地よいものになっていくのです。他の直接的などんな言葉よりも、この響きに相手の本心が表れているような気がして。それが、私にとっての愛情やぬくもりを感じるための一つの手段であり、自分の気持ちを確かめるための大切なものだったりします。

©2016「君の名は。」製作委員会

自分が苦手だからこそ、相手が距離を縮めてくれたことを敏感に感じてしまうのかもしれませんね。自分ばっかりずるい!と思われてしまうかもしれませんが…。三葉と瀧くんは最初からお互いを親しく呼び合っているので、それが羨ましかったりもしました。

今まであまり名前について考えたことがありませんでしたが、自分の中にある名前への強い意識に気付いたのが、「君の名は。」のこのシーンです。三葉が少しづつ瀧くんの存在を忘れてしまっていることに気付いた時、坂道を全速力で下りながら「瀧くん・・・瀧くん・・・瀧くん!!」と自分の中から瀧くんが消えてしまわないように叫び続けます。そして、勢い余って転んでしまい、「これじゃあ、名前わかんないよ……」と泣きながらつぶやきます。

この瞬間に私も涙腺が限界に達して、思わず涙がこぼれました。三葉の中から、瀧くんの存在が消えてしまったことを感じる瞬間だったからです。まだ出逢っていない二人にとって、お互いが存在していることの唯一の証明でもあった名前が消えてしまうのは、自分の中から相手が消えてしまったことに繋がる。こんなにも想っているのに、こんなにも強く求めているのに、それでも自分の中から消えてしまうのは、どんなに辛いことなのでしょうか。

©2016「君の名は。」製作委員会

三葉は、自分の溢れてくる想いに堪えきれずに瀧くんの名前を叫んだのでしょう。瀧くんにも同じ様に、三葉の名前を思い出そうとするシーンがあります。突然お互いの存在が消えてしまい、名前を呼ぶことが出来なくなってしまうのですが、これは三葉と瀧に限らず、私たちにだって起きること。

©2016「君の名は。」製作委員会

例えば明日、大震災が起きて、大事故が起きて、まったく予期せず、今隣にいる人が消えてしまったら…。もう、名前を呼ぶことも相手の存在を確かめることも出来ません。当たり前のように過ごしている毎日も、明日には何が起きるかわからない。一瞬ですべてが消えて無くなってしまうかもしれない。だからこそ、当たり前のようにいてくれている大切な人の存在をきちんと感じて、確かめておかないといけないということに気付かせてくれる作品でした。

改めて、名前が呼び合える距離に大切な人がいることを実感してください。FORZA読者の皆さんも、大切な人が側にいるのなら、想いを込めてその方の名前を呼んでみてください。改めてだとちょっと恥ずかしいかもしれませんが、振り返って返事をしてくれた時、いつもより少し相手が愛おしく思えるのかも。側にいてくれること、自分の声が届くくらいの場所に存在してくれていることの喜びを感じられるかも。

そして最後に気付いたこと。名前は、誰かに呼ばれて初めて成り立つもの、その存在理由が生まれるものだということ。だからこそ、当たり前のようにいてくれている大切な人の存在をきちんと感じて、確かめておかなくちゃいけないと気付かせてくれる作品でした。その人の中には、ちゃんと自分の存在が刻まれているということだから。そんな想いを、今回の恋人(作品)は私に教えてくれました。

ちなみに、この作品の中で一つだけ、どうしても納得出来なかったことがあります。それは、三葉と瀧くんは会ったことも見たこともない相手のことを、なぜここまで強く思い合えるのか? ということ。知り合いの関係者の方に、この疑問をぶつけてみたのですが「今までこの作品のいろーんな意見を言われてきたけど、それを指摘されたのは初めてだわ。お前、やっぱり夢とか希望とか胸キュンとか全くないんだな。」とドン引きされました。す、すいません。うーん、彼らから見習うべきことが多そう・・・。

それではみなさま、今日も素敵な1日をお過ごしくだい!

Photo:Riki Kashiwabara
Text:Natsuko Hidaka

Edit:栗原P

君の名は。」
監督・脚本:新海誠作画監督:安藤雅司 キャラクターデザイン:田中将賀 音楽:RADWIMPS 声の出演:神木隆之介 上白石萌音 制作:コミックス・ウェーブ・フィルム 配給:東宝 http://www.kiminona.com/

【撮影協力】
ユーロスペース
渋谷区円山町1‐5 KINOHAUS 3F
03-3461-0211
http://www.eurospace.co.jp/

【ひだか・なつこ】
小学校から大学までの16年間を附属の女子校で過ごした“こじらせ女”。(幼稚園もほぼ女子校だったので、それもカウントすると約20年間)幼い頃に家族の影響でエンターテイメントに目覚る。中学・高校をミュージカルに、大学生活を映画館でのアルバイトに捧げ、海外ドラマ廃人も経験する。映画やエンターテイメントとより多くの人を結びつけたいという想いから、放送局に入社。今でも毎週末は映画館で過ごし、これまで見た作品は約4000本。そんな映画への愛をこじらせ、コンシェルジュとして今回の連載を担当する。なつこのインスタグラムはこちら

 

 



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