「日本で一番悪い奴ら」 衝撃の問題作はこうして生まれた
「英雄がいる時代は不幸だが、英雄を必要とする時代はもっと不幸だ」。そんな警句を愛したのは寺山修司だが、いまの映画業界には、こんな言い換えも出来るかも知れない。「悪役がいる時代は不幸だが、悪役を必要とする時代はもっと不幸だ」と。
前作、「凶悪」で、実際に起きた殺人事件を通して目を背けたくなるような人間の業を描き、映画賞を総なめにした白石和彌監督。魅力的な「悪役」が少なくなった映画業界で、ピカレスクにこだわって人間の業を活写する希有な監督だ。

そんな白石監督の新作、「日本で一番悪い奴ら」が全国で大好評ロードショー中だ。今回白石監督が手がけたのは、実話に基づく犯罪映画である。
日本警察史上最悪の汚点と呼ばれる「稲葉事件」。北海道警の現職警察官が、自ら拳銃や覚せい剤の密売に手を染め、挙げ句の果てに、薬物中毒になって銃刀法違反と覚せい剤使用、営利目的所持で警察に捕まるという前代未聞の事件を、主演の綾野剛が鮮やかに演じ切り、笑って泣けて、余韻の深い作品に仕上がった。
以下、柔和な笑顔と鋭い眼光を併せ持つ、白石監督のインタビューをお届けする。
――なぜ今回、「稲葉事件」を題材に据えたのでしょうか。