編集長に病魔が… それでも撮影は続く
「死にそうなんです」。そんなLINEが送られてきたのは、花もほころぶ三月下旬の早朝のことだった。死ぬ死ぬ詐欺。この業界で横行している悪弊である。やれ忙しい、やれ寝てない、やれ仕事がない……。しかしその送り主が弊誌編集長の干場義雅なのだから、事態は深刻だ。24時間が5時から男、八面六臂の活躍を見せるファッション・ディレクターの身に何が起きたのか。寝ぼけ眼でLINEを送る。
「どうされましたか?」
「熱が39度近くもあって、フラフラなんです」
「大至急スマホを投げ捨ててお休みください」
「そうは問屋が卸しません。今日も朝から晩まで撮影です」
「命あっての物種。体が資本ではないですか」
「仕事ですから」
この4月に社会人になる若者たちよ。仕事とはかくも厳しいものなのだ。ゆとったり悟ったりするのは簡単。しかし、あえて茨の道を行くのが男のド根性である(私事で恐縮だが、プロデューサーは熱が37度を超えたら大事を取って休むことにしている)。
熱をおして撮影場所に現れた干場編集長はしかし、現場のスタッフに身の不調を一切漏らすことはなく、淡々と撮影を進めていく。長時間立ちっぱなしのスチール撮影、アドリブを求められる動画撮影。高いパフォーマンスを見せつけるが、時折よそを向いて咳をするたびに胸が痛む。

「今日はこのぐらいにしておきましょう」
「まだ大丈夫です。まだまだ行けますよ」
「顔色が優れません、もうここでドクターストップにしましょう」
「カメラマンさん、スタンバイOKです!」
かくしてこの日の撮影は、予定通りすべてが終了した。精神力だけで立っている状態の干場編集長は、マットに倒れる寸前の矢吹丈のようだ。抱えられるようにして講談社のスタジオを出て、そのまま編集部のソファーに崩れ落ちるかと思いきや、WHの靴で向かったのは3階の社食である。
「おばさん、醤油ラーメン大盛りで!」
旺盛な食欲で箸を上下させるその姿を見ながら、私はつくづく自分が凡人であることを思い知らされたのであった。
次回も知られざる干場義雅編集長の魅力をパパラッチする。

Text:Yoshihide Kurihara