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[前編] 松浦弥太郎さんに訊く
新メディア『くらしのきほん』のスタートと これから

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『くらしのきほん』ローンチから1ヶ月
まずは、その手応えについて訊きます

『暮しの手帖』を辞め、4月1日からクックパッドへ電撃移籍し、新しいWEBメディア「くらしのきほん」をローンチさせた松浦弥太郎さん。なぜ、『暮しの手帖』を辞め、クックパッドに移籍したのか? 紙からウェブメディアに移行した感想は? ローンチさせて1ヶ月を迎えた松浦さんに、その状況と心境を語っていただきました。

『くらしのきほん』(https://kurashi-no-kihon.com/)は、松浦弥太郎さんが「あなたの暮らしはもっと楽しくなる」というメッセージを掲げ、人々の暮らしに役立つ情報をお届けする新しいメディアです。コンセプトは、「基本の発見」。情報と知識だけに頼らずに、知恵、すなわち、心のはたらき、考え方を身につけることを目的としています。衣食住すべての上質な知恵を、暮らしの百科辞典のように発信していきます。

 

--『くらしのきほん』がスタートして1ヶ月ほど経過しましたが、感触はいかがですか?

松浦弥太郎(以下松浦/敬称略): たしかな手応えは感じています。それから、せっかく じぶんが手掛けるなら、じぶん自身が毎日新しさを感じることを徹底したいんです。現時点では、じぶんの中ではまだまだプロトタイプなのですが、3ヶ月単位でどんどん進化させていきたいと考えています。生まれたばかりの赤ん坊な気分ですね。

--まだまだ進化の過程にあるわけですね。

松浦: 半年以内でプロトタイプからの脱却を考えていまして、最初はページビュー数などはそれほど意識せず、それよりもクオリティの担保だったり、じぶんらしいディテールの磨き上げだったりに集中したいです。しかし、3ヶ月と言ってもあっという間なので、サイコロが転がる感じでゴロゴロと変わっていくと思います。やりたいことはいくらでもありますので。

--実際にスタートさせてみて、企画の着想時に思い描いたようなカタチに仕上がっていますか?

松浦: 2015年4月1日にクックパッドに入社して、その日に新しいメディアを作ろうというコンセンサスを取ったんですが、それから2~3日でじぶんが思い描いていたメディアのカタチを文章化・ビジュアル化ができたので、デザイナーとエンジニアにコミュニケーションを図りました。

出版の世界は分業化がはっきりしていますが、WEBの世界ではエンジニアという存在がありとあらゆることを考えながら、作業してくれるという、今までじぶんが出会ってきた人とは異なる人種に出会った感じがありました。彼らはアートディレクター的な立場であったり、技術者やプランナー、あるときは編集者的な役割を担ってくれ、じぶんが思いの丈を語ると指示書もなく開発をしてくれるのです。もちろん、同様に優秀なディレクターのサポートもあってのことです。

--思いを具現化するのが、出版時代よりもスムーズですか?

松浦: そうですね。そういう仲間に出会えたのは大きかったです。4月に着想して、6月の時点で社内公開。実質2ヶ月でほぼ完成していました。その2ヶ月というのも、実際の開発作業はゴールデンウィークから始めたわけで、しかも新規事業なので専属のエンジニアスタッフではなく、有志を集い、彼らは自身の持ち場と兼任で、休みの日などを使って作業してくれたりしました。ですから実質の開発日数は正味1ヶ月もなかったんです。

--それは、かなりスピーディ。とても優秀なチームだったわけですね。

松浦: はい。それには驚きました。出版ってアイディアを出してから印刷に定着するまで2ヶ月程かかるじゃないですか?

--そうですね。意外に時間がかかります。

松浦: ところが、WEBなら1週間以内でカタチになるという、そのスピード感は相当衝撃でした。これもWEBの世界でも当然なんでしょうけど、修正・改善ありきなので、記事などを完成させてからが本当のスタート。そこから改善点を見つけて より良くしていく方向を考えていくというスピード感はじぶんにとって、気持ちが良かったです。

こういった高い技術力を持っている人たちに対して、じぶんがどういったコンテンツ、その技術に劣らないコンテンツを作っていけるかを考えていくことも相当に刺激でしたね。こういったお互いのせめぎ合いがあったのも、新しいメディアをスタートさせて良かった点だと思います。

--良い道具と器があるから、良い料理を作らなくては、という気持ちに似ていますかね。

松浦: そうですね。こういう発想は今までなかったので新鮮でした。それから出版の世界だと本を出してしまうと、もう直せなくて次を出すしかないんですが、WEBなら公開してからでも改善ができるから「毎日どこかしらをもっと良くしていこう」と考えられるのは新しいですよね。それと、今までスピードとクオリティの担保を両立させるのって難しかったんですが、僕はじぶんのメディアを使って、この両立を実現化させることが ひとつの課題でもあります。

--紙からWEBへ移行してみて、日々記事をアップするというようなスピード感には慣れましたか?

松浦: もともと 僕は短気でせっかちなので、慣れたというより より快適です。ですから、よく今まで2週間とか印刷を待てていたなと思うほどです。

--となると、WEBのスピード感の方がフィットしていると。

松浦: 今日の朝思いついたことが、午後にはカタチになっていて、次の朝には改善できているってことが嬉しいんです。これは発想する側にとっては とても爽快なことです。過去に書いた記事ももっと良い表現があると気づけば、修正もしますし。

--ガラッと転換した割りには、すぐに慣れて、快適ですらあるわけですか?

松浦: 今は楽しくって仕方がないです。ローンチしてだいぶ落ち着きましたが、ローンチまでは作業があるのでほぼ休みがなかったんです。でも、楽しかったから全然平気でしたね。久々ですね、この歳になって仕事がこんなに楽しいのは。

--僕も紙からWEBへメインのフィールドを変えた人間なので、最初はそのスピード感に感動したんですが、のちに「追われている感」をつねに感じるようになってしまったんですが……、それはなさそうですか?

松浦: ないですね。それはきっと僕がメディアの管理者として、今日と未来をコントロールできるから。例えばルール化して更新頻度などは決めていますが「追われている感」は感じません。現状1ヶ月先のコンテンツは準備できていますし。

--1ヶ月先ですか? それは結構しっかりと準備されていますね。

松浦: この準備したものがそれぞれスケジューリングされていますが、朝起きて世の中の動きを見て、突然まったく別の内容に変更してアップしたりもしますね。それが大事な気がして。やっぱり毎日世の中を見て感じながら、「今日みんなが何を必要としているか」に気持ちを傾けてアドリブで調整していく。そのためにはコンテンツをたくさんストックしてカレンダーで管理しておくことが重要なんです。

だから、感覚的にはパズルなんです。毎朝カレンダーを眺めて、この順番でいいのか推敲して並べ替えたり、差し替えたり。WEBなので読者の感想もダイレクトに届くので、すぐにアレンジしていく。今まではこんな発想はなかったです。

今、じぶんがすべきことは、継続的にこのメディアを、いかにユーザーの生活の中に溶けこんでいって、絶対に必要であるというユーザーをいかに増やすかということ。毎日何人見たのか、を意識するのはまだ先の話だと思っています。

--少し遡ってお聞きしますが、松浦さんが『暮らしの手帖』社を辞めようと決断したのは、いつ頃ですか?

松浦弥太郎(以下松浦/敬称略): 最初は入社して5年くらい経ったときです。じぶんの中で目標を立てていたり、売上部数だったり いろいろな約束をしていたので、なんとかそれらを果たそうと頑張っていました。じぶんが考えるに、雑誌って5年くらいで編集長は変わるべきな気がしています。それ以上続けると、悪くはないんですが作る側の鮮度も落ちますし、いろいろなことが やりやすくなってきて緊張感を失いますから。

ですから、5年を目処に考えていたんですが、その時点では約束していた目標数値には届いておらず、もっと頑張ろうと続けることにしたんです。そうこうしているうちに9年経ってしまって、結果的には21万5000部という、20万部の目標数値は達成できました。次の新しい世代にバトンを渡そうと決断したのが2年くらい前になるんですかね。

--結構前なんですね。ちなみに、その時点で辞めた後の展望などは、考えていましたか?

松浦: じぶんが経験したことない、新しいことをやろうと考えていました。かつて、マイケル・ジョーダンが野球の選手になったような……、その感覚でした。

--では、当時はWEBの世界に身を投じようと明確に考えていたわけではなかったんですか?

松浦: 意識はしていましたが、当時じぶん自身の情報量が少なかったんです。すごく興味はありましたし、これからの時代のメディアって考えるなら WEBは絶対に必要ですし、もっと可能性があると考えていました。ただ、なかなか学ぶチャンスがなかったので遠目に眺めている感じでした。

前編はここまで!
続きの後編は こちらから。

Photograph:Shota Matsumoto
Text:FORZA STYLE







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