内閣官房こども家庭庁設立準備室が令和5年1月に発表した調査が興味深い。子育てをして負担に思うことの設問で「子育てによる精神的な疲れが大きい」という項目のポイントが年々増加しているのだ。危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏はこう話す。
「昔に比べて簡単に情報が手に入るようになったことで、子育ても様変わりしている印象です。なかでも昨今話題になっているのが、叱らない子育てとか褒める子育てと呼ばれるもの。子どもたちの自己肯定力を下げないことを目的にしたもので、その良さが広く語られています」。
反面、心配もあるという。
「そもそもネットの情報はエビデンスがないものもあります。鵜呑みにしてはいけないということです。子育てに限ったことではないですが、事象にはいい面と悪い面、メリットとデメリットがあります。その辺りをしっかり理解してから取り入れないと痛い目をみる可能性も…」。
今回は叱らない子育てをしているママ友との間で、トラブルになってしまったというある女性に話を聞くことができた。
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森佳奈子さん(仮名・28歳)は、小学生と保育園の子どもを持つ主婦だ。
「平日は基本ワンオペなので、本当に大変です。長男が小学校に上がって少しは楽になるかなと思いましたが、まだまだ手がかかります。毎日があっという間に過ぎていきますね」。
在宅でライターをしながら子育てをしているという。
「専門を出て働いて、20歳で子どもを産みました。仕事復帰はなかなかできなくて、結局在宅でできるWEBライターになったんです。お給料はそんなに高くはありませんが、今はなんとか暮らしています」。
そんな佳奈子さんを悩ませているのが、保育園のママ友Aさんだ。
「娘の同級生のママで、クラスが同じになり話すようになりました。家も比較的近くて、休日に公園で偶然会うことも。年齢は15個近く上。お子さんは男の子1人っ子です」。
いわゆるバリキャリタイプで、佳奈子さんは当初、彼女にほのかな憧れを抱いていたという。
「私はしがないWEBライター。稼ぎも微々たるものですし、それに比べると大きな企業に勤めているということがすごく眩しく見えました。化粧品関連の企業だそうで、試供品なんかをくれることもあって、そのサバサバした雰囲気がかっこよくて…。これまで生きてきた中にはいなかったタイプだったんです」。
そんな彼女との間がギクシャクし始めたのは、ある日の帰り道だった。
「なかなか帰りたがらない子どもたちを納得させるため、その日は歩いて帰ることにしたんです。私たち親は自転車を引きながら歩きました。家まで15分くらいですかね。自転車に乗れば、5、6分でつく距離。正直なところ、私は無理矢理にでも自転車に乗せて帰りたかったんですが、Aさんがそれを拒んだというか…」。
佳奈子さんが娘に「今日はもう帰るよ!」と少し強い口調で言ったときのことだ。
ーほら、そんなに大きな声で言わないの。