ではなぜ、宝くじを安全だと思うのだろうか?
「沼ってもたかが知れているからじゃないですかね。それに後追いそんなにしませんしね」
しかし、剛はあることがきっかけで、宝くじに沼ることになる。
剛はそもそも営業職として働いていた。
「スタートアップの人材開発会社での営業はかなり大変でしたね。ほとんど飛び込みっていうか。成績上げないと上からも叩かれるし、1年でギブアップです。ブラック中のブラック。あんな仕事は二度とやりたくないですね、ほんと」
宝くじを買う数が増えたのは、この営業職に就いた頃だったという。
「そもそも、親が毎年年末ジャンボを買っていたんですよね。だから、結構身近な存在で初めのうちはジャンボ宝くじを中心に買っていました。でもあれって、買ってすぐ当選がわからないじゃないですか。それでいわゆるスクラッチを買うようになっていきました」
スクラッチとは、コインで銀箔を削るくじのことで、当たり外れがその場でわかるものだ。原則一年中、何かしらのスクラッチくじが宝くじ売り場では販売されている。
「キャラクターものも多いじゃないですか。それも高まるんですよね、思わず買っちゃうっていうか。1枚200円のものと300円のものがあって、300円のものは削る部分が多いんですよ。おまけみたいなクジもついていて。当選額も大きいです。営業とってこれなくて、上から散々文句言われて、むしゃくしゃしている日は、外回り途中に宝くじ売り場に寄るのがお決まり。コンビニでビール買って帰って、家で削るのが最高のストレス発散になっていました」
当時の宝くじの購入額は、1ヶ月におよそ5万円。これは普通に考えればかなりの額である。
「でも、特に趣味もなかったですし、暮らしていけないわけじゃなかったんで。食費はいつもカップ麺とかコンビニおにぎりとか簡単に済ませていましたし、服は毎日同じスーツばかり。週末も大体、家でダラダラしていてお金使いませんし、支払いに困ることはありませんでした」
剛はこう語る反面、仕事でのストレスが大きくなるのと比例して、スクラッチくじを買う回数も次第に増えていったのだという。
TEXT:悠木律