思い返せば、ここから大きく箍が外れた気も……
さて、108回目は煩悩の数に相応しい、「トム ブラウン(THOM BROWNE)」のスーツ2着です。彼は2001年に自身の名を冠したブランドをスタートさせていましたが、初めてプレタポルテに参加したのは2004年秋冬のニューヨークコレクション。こちらは2006年春夏なので、日本でも展開され始めて、2シーズンめくらいのものです。ユナイテッドアローズではもう少し前からありましたが モッサリしてて いまいちトキメキませんでした。
確か、ニューヨークのバーグドルフ グッドマン(Bergdorf Goodman)にてバンドマンに着させて演奏させる、インスタレーション形式で発表されました。
そんな中で自分が目をつけたのは、上下で色味が異なるグレーのスーツ。ビジネスのスーツとしてはNGなのかもしれませんが、まだギリ20代だった自分には新鮮に映りましたし、まだまだモードにドップリだったので、スーツに傾倒していく入口としては 丁度ええ感じでした。
当時トム・ブラウン自身もそんな風に着こなしていたので、デザイナーの意志を共有するという意味でも恰好のアイテムでしたね。
で、当時取り扱いのあった伊勢丹に入荷するなり速攻清水ダイブ! 即買いしたのには、もちろん理由がありまして、裏見てビックリ。背抜きの裏地がマドラスチェックのパッチワークだったんです!!
パイピング部分もだなんて… なんて芸が細かい。
もちろん、段返りの3つボタンでフックベント。幼き頃にラルフローレンに出逢い、ドップリとアメリカに浸かっていた先輩方の背中を追い続けてきた自分には堪らない、アイビー&プレッピーのエッセンスが香る一着だったんです。
ブランド創設当時はブルックスブラザーズの上級ラインを手掛けているマーティン・グリーンフィールド(Martin Greenfield)が仕立てていたそうですが、この前のシーズンくらいからロッコ・チカレッリ(Rocco Ciccarelli)に変更したらしく。ちなみにココだと、スーツ一着作る工賃が900ドルっ! 生地だってホーランド&シェリー(HOLLAND & SHERRY)のヴィンテージとかを使っていたって言うんですから、そりゃ高額にもなりますよね…。
自分も30歳を迎える年だったってことで、大奮発! 時計買おうと貯めていたお金は 一気に消え去りました。
そして意気揚々と着てはみたんですが、既視感がないからか、上下色みが異なるスーツって意外に難しい…。「こりゃ着なくなるな」ってな一抹の不安がよぎった訳です。大枚叩いて買ったのに。
それはいかんと思い立った策が、"逆パターンも買えばいい!" そうすれば濃いグレーと薄いグレーのスーツ2着に大変身。慣れれば、色みが異なる組み合わせもできるから 2粒で4度美味しくなる可能性も!と。
ただ、日本での取り扱いがなかったので、イタリアはルイザ ヴィア ローマ(LUISA VIA ROMA)のオンラインにて清水ダイブ・再び。華麗な色ち買いを実行することに。
もちろん、こちらも裏地はパッチワークのマドラス。
結果、色の濃いグレーと薄いグレーの2着、「トム ブラウン」のスーツが揃うことになりましたとさ。
いや〜、いま振り返ると狂ってますね…。30歳を迎える年にトム ブラウンのスーツ2着……。当時、吊るしのスーツの中でも群を抜いて高額だったにも関わらず。しかも、その前の2005年秋冬には伊勢丹の投げ売りでコート、スーツ、ジャケットも買ってたし、一緒に扱われていたスペンサー・ハート(Spencer Hart)やダンカン・クィン(Duncan Quinn)なんかもチョコチョコ買ってたし。実はもう2着ジャケットも……、ホントどうやって生活してたのか(笑)。
内緒なんですが、さらに その後やっぱり30歳の記念には時計だろって、パネライ(PANERAI)のルミノール マリーナまで買ったんだった。
中学生くらいからずっと、好きな服ばっかり買い捲って、お金を服に変え続けてきましたが、振り返ると30歳を迎えるこの時期が、大きな分岐点。一点一点のアイテムの額面が 大きく跳ね上がりましたね…。それが今だに続いてるという……。コレって もしかしたら こじらせてるんですかね??
Photo:Naoto Otsubo
Text:Ryutaro Yanaka