年々プレミア化が進む、デイトナ初の自動巻きモデル
そろそろ自分らしい腕時計との出会いを真剣に考えている40男の皆様に『FORZA STYLE(フォルツァスタイル)』がオススメしたい選択肢のひとつが“ヴィンテージウォッチ”です。
その世界は奥深く、手頃な価格で買えるコスパ重視の時計もあれば、果てはオークションで競り落とされる投機の対象となるプレミアムな個体も数多く存在します。実際問題、ヴィンテージって聞くと妙に敷居が高く感じられたり、あまりの人気ぶりから偽物まで出回っているグレーな世界であることは否めません。それもあって、どうも二の足を踏んでしまっている方が大勢いるかと思います。
そこでこの連載では、ウンチクに寄り過ぎず、今どきのファッションにもしっかりとハマる腕時計であることを前提にしながら、名機の購入ガイダンスを中心に、さまざまな角度からヴィンテージウォッチの魅力について触れていきます。
今回は、先日バーゼルワールド2016で新作が発表されたばかりのROLEX(ロレックス)の「Oyster Perpetual Cosmograph Daytona(オイスター パーペチュアル コスモグラフ デイトナ)」の前々作であるRef.16520のマークⅠダイヤルをご紹介します。
世界一有名なクロノグラフであるデイトナは、ヴィンテージウォッチの世界でも人気は変わらず、圧倒的な支持を集めています。市場にはもはや憧れを通り越した価格にまで高騰している超人気のポール・ニューマンダイヤルを筆頭にマニア垂涎の個体が並んでいます。
ヴォンテージのデイトナと言えば、基本的には「パーペチュアル」の表記が入る前、つまりは手巻き時代のモデルを指します。では唯一の例外として挙がる自動巻きのRef.16520は、そもそもはどんな背景から生まれたモデルなのか? そこから説明いたします。
Ref.16520の初出は1987年。ロレックスの念願であった自動巻きのクロノグラフ専用ムーブメントを採用した初のモデルとして登場しました。当時は完全な自社開発にまでは至らず、ZENITH(ゼニス)社の傑作「エル・プリメロ」をベースにチューンンナップしたCal.4030を搭載していたことでも知られています。
「エル・プリメロ」は毎秒3万6000振動を実現した世界初のハイビート化に成功したクロノグラフ専用ムーブメントとしても知られていますが、Cal.4030はあえて振動数を毎秒2万8000回にまで下げ、パーツの消耗を抑えることで耐久性を高めている点がいかにもロレックスらしいアレンジだと言えます。
前置きが長くなりましたが、いよいよ本題に入ります。この個体はデイトナの自動巻きのステンレススティール製のモデルとしては別格で、下手な手巻きデイトナよりも高価で取引されています。プレミア化した理由はムーブメントなど実用性は一切関係なく、最初期のR~L品番だけに見られる外装の仕様にあるのです。
マークⅠダイヤルで高く評価されているディテールは、マニア間で呼ばれる“段落ち”と呼ばれる文字盤の表記と“200タキ”と呼ばれるタキメーターベゼルの2箇所です。
後続機のRef.116520と比較するとわかりやすいのですが、この他にもインダイヤルの6時位置の表記やラグとブレスレットを接続するパーツであるフラッシュフィットの変更などの仕様の違いがありますが、これは初期型に限らなく言えることなのでプレミアの対象にはならないのです。
1988年と高年式の時計ですから、雰囲気は一般的なヴィンテージウォッチに見劣りしますが、実用という意味では現行品と比べても遜色がないほど優れています。しかも同じRef.16520でも後期であれば落ち着いた価格での入手が可能です。
ではRef.16520のマークⅠダイヤルが、なぜ異様に高いのか? それは偏に市場における需要と供給のバランスにあります。ヴィンテージウォッチはクオリティの高さが魅力である一方で、完全に言い値の世界であることも無視することはできないのです。
ちょっとしたディテールの違いで同じような腕時計の価格が数百万円も変わるとなると、端から見れば馬鹿馬鹿しい話に聞こえるかもしれませんが……。一方でそこに価値が生まれていることもまた紛れもない事実なのです。その証拠に、Ref.16520のマークⅠダイヤルの資産としての価値は世界的に認められ、格安での購入は現時点ではほぼ不可能だと言えます。
モデル・年代は問わず、年々敷居が高くなるデイトナの購入ですが、正解は人それぞれだと思います。最高峰のステータス性と資産的な価値を求めてポール・ニューマンダイヤルを狙うもよし、日常使い向けでなおかつ投機の対象にもなるRef.16520のマークⅠダイヤルを狙うもよし、あるいは争奪戦必至の最新モデルRef.116500LNを買い押さえるのも、すべてはオーナーの選択次第です。
Photo:Yasuhisa Takenouchi
Text:FORZA STYLE