「彼は2歳年上の会社員です。彼自身もサービス業メインの企業に勤めているのに、どうもカスハラ体質が強いようで、近頃は不愉快を通り越して、人として信じられなくなってきてしまいました。
子供が欲しいので年齢的には焦っているんですが、本格的に結婚を諦めた方がいいのかどうか、正直真剣に悩んでいます」
さゆりさんの彼は身内や知っている人に対してはきわめてジェントルな男だという。
「私の家族とか友達にも凄くいい人で、なんならそれが結婚の決め手になったといっても過言ではありません。実家に連れていって母が手料理をふるまった時も、母をねぎらったり褒めたりしたうえ、帰宅した後お礼の電話まで入れてくれて」
本来なら「のろけ話」のような話題も、眉間にシワを寄せて口にするさゆりさん。今となっては、「親切な彼」の方が仮面なのではないかと疑っているためだ。状況はかなり深刻といえる。
「うちの親は『今どきあんな子いないよね』と言ってすっかり信用してました。さゆりはいい人に出会えた、この年まで待った甲斐があったねって大喜びされて、泣かれたくらい。実はその頃すでに『場面によって印象の違う人だな』とは思ってましたが、まだそこまで不安視してなかったんです」
最初に彼のスイッチが入る音を聞いたのは、つき合い始めて数回目のデートだったという。
「ドライブしていて、ファストフード店のドライブスルーを利用したんですね。そうしたら、注文時に『ご用意できるまで少しお時間をいただきますので、あちらでお待ちいただけますでしょうか』と言われて、待機スペースまで車の移動を促されたんですよ」
車の待機スペースは2台分あり、さゆりさんたちの車が1番のスペースに停めたあと、後から来た別の車が2番に停めた。
「で、後に来た車の方が早く商品を渡されて出ていったんです。そんなのってたまにあることですよね。なのに彼は舌打ちして、あからさまにイライラし始めたんです」
少し後、商品の入った袋を持って小走りで車までやって来た女性店員に対して、彼はこう言った。
「『なあ、待たせるの長いって。百歩譲ってそこは許すにしても、俺らより後に来た人の方が先に受け取るのっておかしくない?』みたいなことを言い出したんです。