沼には要注意
小林製薬製造・販売のサプリメントに含まれた「紅麹」問題の広がりに多くの人が不安を募らせている。健康のために使った食品が健康被害をもたらすというショッキングな報道には耳を疑うが、これを機に口に入れる物への意識をさらに高めようと決意した人も多いのではないだろうか。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹はサプリメントとのつき合い方についてこう話す。
「今回の出来事の発端となったサプリメントは健康被害と紅麹原料の関連が疑われ、当該商品以外にも、同社製の紅麹を含む食品にまで広く問題が波及しています。
そもそもサプリメントは食品であり医薬品ではありませんし、医薬品や別のサプリとのいわゆる飲み合わせについても知識を持つことが必要。できれば医師や薬剤師に相談しながら使用することをおすすめします。
ただユーザーには、含有成分の一つ一つを検証することは不可能なので、サプリの選択には今後さらに慎重を期す人が増えそうですね」
何らかのサプリメントを使用している人に対し、選ぶ際に注意していることについて取材してみると、「医師などに『飲んでもいいか』どうかや『飲み合わせ』について相談する」という意見が複数聞かれた。
反対に「特に注意もせず、良さそうだと思った時に衝動的に買う」という声もあったが、そんな中、「母親がサプリと健康食品沼にハマり大量に買って飲んでいる」という女性に出会った。
「母は50代半ばの閉経を機にサプリにハマりました。更年期障害に悩まされ、関節の痛みを感じる頻度が上がったタイミングです。健康と将来への不安を感じ始めた還暦前の母にとって、サプリメントは最後にすがるべき一本のワラのような存在だったのかもしれません」
こう語るのは会社員の志賀結子さん(仮名)。結子さんは夫と夫の両親と二世帯住宅で暮らしているが、昨年末、ついに実母が義両親へのお歳暮としてサプリメントを送ってきたことに立腹しているという。
「自分が飲むだけでは飽き足らず、親族に勧めたり頼んでもいないのに買って送ってきたりするので困ります。みんなで健康になろうなどと言いますが、本当に大きなお世話です。義両親も口では言いませんが、私の母の暴走を冷ややかに見ている感じで恥ずかしいですね」
結子さんの母は、閉経後に骨が弱くなりやすくなるという情報をテレビで耳にし、その時初めてカルシウムのサプリメントを購入。その後定期購入に切り替え、さらにカルシウムの吸収を良くするとされるビタミンDも追加で飲むようになった。
「将来寝たきりになりたくない、子供に迷惑をかけたくない、が母の口癖です。その考え自体はいいと思うのですが、カルシウムもビタミンDも摂れば摂るだけいいと思い込み、サプリで補給しているくせに、食事からも摂りまくっています。過剰摂取にならないか心配で」
日光浴がビタミンDを作るのにいいと聞き、必死になって朝のウォーキングを継続しているという結子さんの母。一見、理想的かつウェルビーイングな生活に見えるが...
「運動や食事管理に気を付けるようになったお陰で、更年期の症状が治まってきた頃には健康的にはなっていましたが、そこで成功体験を得てしまったせいか、サプリや健康食品を盲信するようになってしまいました」
健康的になれたのは、運動や規則正しい生活・食事が奏功したのではないか、という結子さんの問いかけには耳を貸さず、母はサプリメントが健康をもたらしてくれたと信じて疑わない。