FASHION ― 百“靴”争鳴

【シューシャイナー 石見豪】普通に映画化できそうな、波乱万丈の物語とは 〜後編〜

2019.2.16 2019.2.16
2019.2.16

こじラグ谷中が、シューシャイナー 石見豪の生き様を訊く!

石見豪はミュージシャンを目指していました。それがなぜ、シューシャイナーになり、のみならず日本屈指のシューシャイナーといわれるポジションにまでのぼりつめることができたのか。そこには映画やTVドラマになってもおかしくない、波乱万丈の物語があったのです。

馬車馬のような10年を経て

それは本格的に学ぼうと思ってニューヨークの音楽学校の資料を取り寄せた矢先の出来事でした。

家族の名誉のためにここでは触れませんが、高校を卒業したぼくは渡米を諦め、サラリーマンになる道を選びます。ぼくが家族を守らければならなかったからです。

後ろ髪を引かれてはならない。ぼくはすべての楽器を売り払いました。そしてそれこそ馬車馬のように働きました。

サービス業大手の営業職に就いたぼくは目の肥えたお客さんと接する機会が多かった。かれらへの憧れから100万円を超えるカルティエを買ったこともあります。そうして良いものを知り、良いものにはメインテナンスが必要なことを知りました。

社会に出て10年。石見家の始末をつけたぼくは強烈な燃え尽き症候群に襲われました。サラリーマン時代の上司が独立、誘われて創業メンバーとして参画したのですが、まったく仕事に身が入らなかった。このままでは迷惑をかける。そう考えたぼくはみずから退職を申し出ました。

そんなときに出会ったのが靴磨き。ちょうど長谷川さん(=長谷川裕也。ブリフトアッシュ代表)が彗星のごとく現れたころで、大阪にも靴磨きの店ができた。どんなものだろうと訪れてサービスを受けて、これなら一番になれるだろうと思った。

さっそくぼくは天王寺にいきました。そこには靴磨きを生業にして半世紀、というプロ中のプロがいたんです。ところがこのおじいちゃん、機嫌よく磨き始めたのもつかの間、ぼくが靴磨きに興味をもっているといったとたん「磨き屋は帰ぇれっ」って。すごい剣幕で怒られて、なるほど職人の世界はみて盗むものなんだなと感じ入りました。

それからは素性を隠して日本全国の靴磨き職人のもとに足を運びました。磨いてもらったら家に帰って研究。その繰り返し。これを1年近く続けました。友人からも靴を借りて……、数十足はだめにしたんじゃないでしょうか。3度目の上京で十分勝負できるレベルに達したと判断したぼくは起業に踏み切りました。

出足は好調でした。サラリーマン時代の顧客がごっそりお客さんになってくれたんです。3年で2万足を磨きました。

知人のすすめもあり、当初は元手のかからない出張(指定された場所に出向き、磨く)スタイルを採りましたが、2015年、一国一城の主に。店を構えたのは船場ビルディング。登録有形文化財に指定される大正末期のビルです。

先達の背中を追って、靴磨きを文化に

THE WAY THINGS GOという屋号は学生時代から好きだったスイスのアーティスト・デュオ、ピーター・フィッシュリ&デイヴィッド・ヴァイスの作品名を拝借しています。日本語にすれば“事の次第”といったニュアンスになります。靴磨きはそのプロセスも面白い。そう考えるぼくにとってはぴったりのネーミングでした。

当店のサービスはお預かりとその場磨きがありますが、その場磨きの場合はカウンター越しにおよそ40分かけて磨きます。

15分で磨けるぼくがなぜ、40分かけるのか。なぜならば、店を訪れて帰るまでが料金に含まれていると考えているからです。

ぼくは開業するにあたり、磨く姿も徹底して研究しました。むかしの職人なら小手先にこだわりやがってと眉をひそめるかも知れません。所作は技を極めれば自然と身につくものだというのがかれらの美学ですからね。それももっともですが、ぼくが考える靴磨きはすべてひっくるめて靴磨き。立ち居振る舞いはもとより身だしなみや店の雰囲気、そしてそこで交わされる会話まで。文字どおり、すべてです。

この点でもブリフトアッシュの長谷川さんには頭があがりませんね。スーツを着てカウンターで靴を磨く、というスタイルを確立したのだから頭は永遠にあがりませんが(笑)、かれは磨く姿も抜群に格好いいんです。どれだけ練習したんですかと尋ねたら、意識したことはなかったって(石見さんと長谷川さんはともにイベントを仕掛けるほど親密な関係になっている)。

かれは天才であり、ぼくは努力の人です。

そうそう、靴磨き日本選手権大会を発案し、アドバイザーを務めたのも長谷川さんです。

多少なりとも誇れるとすればオリジナルのブラシです。手植えブラシの総本山といわれる関西の工房につくってもらっています。一つひとつ手で植えたブラシは毛切れも脱毛も無縁。弓なりに仕上げた台座はぼくなりのこだわりです。アールを効かせることで毛が半円状に広がるんですが、このシルエットがブラシの戦闘能力を何倍にも高めてくれるんです。大きな手でも小さな手でもぴたりとフィットするボディのバランスも自信をもっています。オンラインストアにアップすれば数日で売り切れるんですよ。

オリジナルといえば今日着ているこのスーツ。店のユニフォームとして大阪のファクトリーにつくっていただいているんですが、フルハンドのそれは一日靴を磨いていてもちっとも疲れない。お客さんの評判もいいんでいずれラインナップに加えられればと思っています。

母に家を借りてあげたい

靴磨きをやりたいっていったら、母親は「なんなんそれ」って(笑)。ま、当然ですよね。当時だれひとりとして応援してくれる人はいませんでしたから。しかし、反応こそ鈍かったけれど、反対はしなかった。家族のためにがんばったことを認めてくれていたからでしょうね。

いまはめっちゃ喜んでいます。関西圏ではしょっちゅうテレビにも出ていますからね(笑)。もうちょっとがんばったら、新しい家を借りてあげようと思っています。

Photo : Naoto Otsubo
Text : Kei Takegawa
Edit:Ryutaro Yanaka

【問い合わせ】
THE WAY THINGS GO 本店
大阪市中央区淡路町2-5-8船場ビルディング415
06-6203-0551
https://www.twtgshoeshine.com

THE WAY THINGS GO × UNION WORKS
東京都渋谷区桜丘町22-20シャトーポレール渋谷 B1F
03-5458-2484

石見豪(いしみ・ごう)
10年のサラリーマン生活を経て靴磨きの世界へ。独学でその技術を習得し、2015年9月、靴磨き専門店THE WAY THINGS GOを地元大阪に開業。19年1月、東京に2号店をオープン。靴磨き日本選手権大会(銀座三越主催)の初代チャンピオン。

Author profile

竹川 圭
竹川 圭
Kei Takegawa

エディター
ライフスタイル誌を経て独立。下町の人情と赤提灯に惹かれ、社会に出てからはイースト・トーキョーを転々とする。近著にノンフィクション『至高の靴職人』(小学館)がある。

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