美知子さんは息子の巧妙なアプローチに呆れつつも、自分の中で渦巻く「嫌われたくない」「身内相手に薄情だと思われたくない」といった心理には勝てなかった。
「多くは出せないけど家賃や光熱費は支払うからと説得され、結局私が折れることに……。部屋は余っているので構わないけど、自分たちのことは自分たちでやってよと念を押した上で、同居を許可しました」
美知子さんは物で溢れた2階の3部屋を大慌てで片付けることになった。
買い取り業者を呼んで家具などを引き取ってもらったり、大量に出たゴミを何回にも分けて捨てたりと、息子たちが帰ってくるまでの2週間は大忙しだったのだそう。
「何とか形になって、息子たちの荷物を入れる日に間に合いました。でも、一息つく間はありません。本当に大変なのはそこからだったんです」
少し前に長年勤めた会社を退職したが生活の不安は拭えず、現在は週に3日ドラッグストアでパート勤務をしている美知子さんだが、やはりできればもっと稼ぎたいと考え、フルタイム勤務のチャンスを伺っていた。
しかし、息子一家の帰省を境に、彼女の生活は孫の世話一色となった。
パートの時間の方をむしろ息抜きのように感じている。
「物は言いようです。今までは孫の顔をなかなか見せられなかったけど、これからはたっぷりそばにいられる、とか言って。あたかも親孝行しているかのような言い方をして。
世話をさせてあげるみたいな感じなのが頭に来るんです。『もう仕事はいいから家で孫と遊んでなよ』とか言われるけど、もはや遊びさえ仕事になっています」
後編では、長男夫婦の家族との同居の実態や苦労について、より詳しくレポートしていく。
取材・文 / 中小林亜紀
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